みかんぼうや

偽りなき者のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

偽りなき者(2012年製作の映画)
4.6
【個人的には2010年代制作の作品の中でも3本の指に入る「考えさせられる」系映画の傑作!人間の内集団・外集団バイアスの恐ろしさを描く本格的社会派映画】

始まりよし、中よし、終わりよし、と最初から最後まで見応え十分の傑作。主人公ルーカスは、自己主張もそれほど強くない、いわゆる誰とでも合わせられる、そして誰からも好かれそうな「いい人」で、実際に素敵な友人たちに囲まれ、職場の先生からも厚い信頼を得て、保育園の子どもたちからもとても好かれている。決して裕福とは言えない地味な生活だが周りの人々との時間を楽しみ、毎日を幸せに暮らしている。そんな誰からも恨まれるような人間ではない彼が、こともあろうか、彼のことが大好きな子どもにょる、ちょっとした嫉妬心といたずら心によって、人生がめちゃくちゃになるようなここまでの悲劇的状況に追い込まれることになるとは・・・

本作の素晴らしいところは、大げさではなく、どんな親しい人間であれ、一度疑念を持たれ始めると、事実ではないことであってもそれを信じ込んでしまう可能性があり、もっと恐ろしいことに、その疑念が一人ではなく集団の中で共有化されるとさらに一人歩きして増幅し、もはや個人の思考や価値観を超越したところで根強い偏見として形成されてしまうという内集団・外集団性バイアスの恐ろしさを、見事なまでにリアリティを持って丁寧に描き切っているところである。敢えて我々にとって馴染みやすいどこにでもいそうな地味で真面目ないい人を主人公にすることで、このような悲劇は実は他人事ではなく、ちょっとしたことで誰に起こるか分からない、ということを分かりやすく伝えている。と同時に、もし自分の友人や知人にそのようなことが起こった時に、自分は何を信じ、どのスタンスで接するのか、ということを自問自答させられる。

話の前半から中盤にかけて目を離せないほど引き込まれるのに、後半にスタミナ切れするどころか、映画としてさらに魅力的な展開と演出に脱帽。ぜひ色んな方に見て欲しいので、あまりネタバレ的なことは書きたくないですが、後半のクリスマスの教会のシーンにおける美しい教会と神のご加護のもと心の美しさを求める人々と対照的に、いや皮肉的に映し出されるルーカスの姿は、作品を見て1か月以上経った今も目の前から消えないくらい衝撃的。また、本作のラスト中のラストの演出も個人的に完璧な締め方で、話としては明るい気持ちになる映画ではないですが(むしろ基本的に全面を通して暗く辛い気持ちになる映画)、見終わった後の「考えさせられる」満腹感はかなりのものです。
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