トムヤムくん

偽りなき者のトムヤムくんのレビュー・感想・評価

偽りなき者(2012年製作の映画)
3.5
教え子の女児がついた嘘のせいで、性的虐待の容疑をかけられた男性教師の話。初めて『つぐない』を観たときと同じような苛立ちを感じた。

わざわざ言わずもがな、この世界は本当に馬鹿げていて、悪意に満ちた偏見や無責任な発言・嘘によって簡単に一人の人生を終わらせることができる。責め立てる側の当事者たちは誰もそれを疑問に思っていない。短絡的で極めて愚かなことである。

つい最近あった星野源の不倫疑惑報道でも確かな証拠もないのにSNSが一斉に荒れて、あっという間に星野源に対する憶測や誹謗中傷で溢れかえっていたけど、そういう意味では世界中にありふれた集団ヒステリーの話でもある。

また、よりによって原因となった子供の両親は、子供の嘘とマッツ・ミケルセンの存在によって夫婦関係が修復されていくのも馬鹿げている。ああ、馬鹿げている。こんな人間が得をする世の中なのが気持ち悪すぎる。(でも自分がこっち側にならないという保証がないところが恐ろしい話)。

ただ正直、作風が流石に地味すぎる。内容に対する胸糞さよりも、地味で地味で映画的盛り上がりに欠けることの退屈さが勝ってしまう。冤罪までの過程も監督側の都合が見え透いていて、リアリティがあまりない。本来ならもっと上手く立ち回れるだろ…と思うところもチラホラ。

まぁ。それにしてもトマス・ヴィンターベア監督の作品は他に『アナザーラウンド』しか観たことがないけれど、ここまで作風の振り幅があるのは凄いなと感心した。追い詰められたマッツ・ミケルセンもかっこよかった。