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ハナ 奇跡の46日間のodyssのレビュー・感想・評価

ハナ 奇跡の46日間(2012年製作の映画)
4.0
【定型の強み】

実際にあった出来事をもとにしたフィクションだと最初に断りが出る映画。

1991年に千葉市で開かれた世界卓球選手権大会で、南北に分断された朝鮮の国家が統一チームを作り、女子が団体戦で世界に冠たる卓球王国・中国を破って優勝するまでの物語です。

統一チームを作り、女子が団体戦で優勝するというのは事実に基づいていますが、おそらくこの映画の個々のエピソードにはフィクションが多いのでしょう。南北選手同士のケンカや恋愛、そして連帯感が芽生えるまでの色々な出来事が描かれています。

そうしたエピソード一つ一つは、まあ映画ではありがちなもので、特にきわだった珍しさや斬新さはありませんが、しかし堅実に結末に向かって流れていく作りは、映画の王道を行っていると言えるでしょう。

特に北朝鮮の選手は、逸脱行為がないか監視員に見張られており、一時は許しがたい逸脱行為があったという監視員の判断でプレイすることができなくなってしまう。社会主義国家が海外の自由主義圏にスポーツ選手や芸術家を派遣する場合、必ずこういう監視員がついているもので、このあたりの展開にはかなりリアリティがありました。

そして感動のクライマックス。ベタではありますが、力を合わせて世界選手権で優勝という場面にはじーんと来てしまいます。定型ながら、定型の強みをそのまま生かしている。また、同じ民族が二つの国家に分断されているという事実が、この定型をしっかりと支えています。

『空気人形』など、日本の映画でもおなじみのペ・ドゥナが今までとは少し違う面を見せてくれているのもいい。

卓球を知っている人間からすると映画にするための設定変更に首をかしげるところもないではありません。例えば団体戦の試合は4シングルス+1ダブルスで行われますが、ダブルスが最後に来るということはあり得ません。2シングルス、1ダブルス、2シングルスの順がふつうです。しかしこの映画ではクライマックスを盛り上げるため、最後にダブルスの試合が置かれています。南北朝鮮の選手で組んだダブルスが、女王である中国を破るという感動のラストを作るためのフィクションですが、映画だし文句を言うほどのこともないでしょう。

なお、日本の某卓球用品メーカーが協賛しているのですが、そのせいで南北朝鮮の選手は皆このメーカーのユニフォームを着ていますし、試合場面でもスポーツセンターに掲げられた広告はこのメーカーばかりで、他の卓球用品メーカー(例えば蝶々印の某メーカーなど)は全然出てきません。

それと、試合の中継担当者がなぜか男二人組ばかりなのが、変というか、喜劇的でした。韓国も、中国も、日本も、ヨーロッパの某国も、試合を実況するアナウンサーが男二人組なのです。戦後間もないころならともかく、90年代に入っているのだからもっと女性が活躍しているはず。何なんだろう?と不思議に感じました。
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