りょう

スノータウンのりょうのレビュー・感想・評価

スノータウン(2011年製作の映画)
4.0
 もう10年以上前の作品ですが、「ニトラム」が好評のジャスティン・カーゼル監督の過去作として観ました。1990年代のオーストラリア南部という実話に基づいた設定ですが、とりわけ悪天候でもないのに薄暗い風景やざらついた映像は、この鬱屈した物語にぴったりでした。オープニングから唐突に使用される不穏な劇伴も効果的です。
 ほとんどエンタメ的な要素もなく、少し間接的ではあるものの、淡々と残忍なシーンが展開されるので、かなり賛否のある作品だと思います。前半に登場するカンガルーの解体シーンはトラウマ級でした。カンガルーそのものが他国の映画には登場しないのに、しかもあんな姿で観ることになるとは…。
 おそらくこの街全体が貧困に浸っていて、登場人物は住宅街の戸建てに住んでいますが、その風景が殺伐として滅入ってしまいます。おそらく意図的に労働や教育のシーンは排除されていて、彼ら彼女らが何に人生の意義を感じているのか理解できない構造になっています。
 そこで展開される性的異常者などを排除するジョンの凶行は、何の展望もなくエスカレートするばかりで、ジェイミーが彼に支配されていく過程は、最初から抗うことをあきらめさせる何かを感じます。その支配関係をうまく表現したポスタービジュアルも秀逸です。
 まったく共感できる要素がないにもかかわらず、圧倒的な臨場感で妙に納得させられてしまう不思議な魅力の作品でした。
りょう

りょう