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汚れた刑事(でか)
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『汚れた刑事(でか)』に投稿された感想・評価

ukigumo09

ukigumo09の感想・評価

3.6
1970年のイヴ・ボワッセ監督作品。彼は若いころ映画誌に批評を寄稿したり、後に名監督になるベルトラン・タヴェルニエと共にアメリカ映画をフランスに紹介する雑誌『Vingt Ans de cinéma américain』を立ち上げたりするなどした。旧友タヴェルニエにエールを送るかのように本作『汚れた刑事』でのギャングのボスの役名はタヴェルニエとなっている。ボワッセは助監督時代クロード・ソーテやルネ・クレマン、セルジオ・レオーネといった監督たちの元で修行しているのだが、特に『フェルショー家の長男(1963)』で付いたジャン=ピエール・メルヴィルからは暗黒街のハードなドラマをクールに描くメルヴィルタッチを受け継いでいる。
『不死身のコプラン(1968)』で長編監督デビューした彼にとって『汚れた刑事』は3作目。本作で扱われるのは警察の腐敗だが、以降『影の暗殺者(1972)』ではモロッコの政治家ベン・バルカの誘拐暗殺事件、『ザ・コモン・マン(1975)』では人種差別問題を扱うなどタブーに切り込む作風が持ち味となっており、そのきっかけとなった作品が『汚れた刑事』である。1968の五月革命直後には映画に暴力的であったり証拠を捏造したりする警官が登場することはしばしばあったが、本作ほど問題になった作品も珍しい。暴力的な訊問、警視正による犯罪者の放置、警察組織の腐敗を描いた本作は、当時の内務大臣の圧力により該当箇所のカットや撮り直しをしなければならなくなり、制作や上映の危機もあったが検閲の件が話題となり逆に大ヒットとなった。

開巻と同時に複数の男たちがロベールという男(ピエール・マッシミ)を殴る蹴るとボコボコにしている。その後ロベールはビルの屋上から突き落とされて殺されてしまう。彼は以前ギャングであったが今は姉のエレーヌ(フランソワーズ・ファビアン)とバーの経営をしていた。昔関係のあったギャングのタヴェルニエ一家がバーで薬物の売買をさせるよう求めてきたのを拒否したため殺されてしまったのだ。タヴェルニエは警察も買収するほど強力な組織であったため警察の上層部は捜査に二の足を踏んでいる。そんな中、激しい捜査により規律違反となり配置転換になっていたファヴナン刑事(ミシェル・ブーケ)が現場に復帰しバルネロ刑事(ベルナール・フレッソン)とコンビを組み、捜査を開始する。一方ロベールの親友のダン(ジャンニ・ガルゴ)は元傭兵のヴィレッテ(エディ・コンスタンタン)の力を借りてロベールの復讐を果たそうと計画を練る。タヴェルニエの警護が手薄になる時間を狙って接近するダンたちとパトロールするファヴナンたちが鉢合わせし、バルネロの威嚇射撃に応戦したヴィレッテはバルネロを撃ち殺す。

バルネロの復讐に燃えるファヴナンは警視正を脅し、この事件の指揮権を手にすると、拷問のような暴力や偽証の強要も辞さない冷徹な行動をとるようになる。捜査は次第にエスカレートし、強情に黙秘する相手にはサイレンサー付き銃で殺すまでになってしまう。この映画では主人公のファヴナンが共感と嫌悪感を同時に抱かせるキャラクターとなっているのが特徴だ。本作は真実の追及や正義を描くのではなく、政治的、道徳的問題提起を行っており、こういった社会問題への照射が本作以降のボワッセ監督の登録商標となっていくのである。