1970年のイヴ・ボワッセ監督作品。彼は若いころ映画誌に批評を寄稿したり、後に名監督になるベルトラン・タヴェルニエと共にアメリカ映画をフランスに紹介する雑誌『Vingt Ans de cinéma américain』を立ち上げたりするなどした。旧友タヴェルニエにエールを送るかのように本作『汚れた刑事』でのギャングのボスの役名はタヴェルニエとなっている。ボワッセは助監督時代クロード・ソーテやルネ・クレマン、セルジオ・レオーネといった監督たちの元で修行しているのだが、特に『フェルショー家の長男(1963)』で付いたジャン=ピエール・メルヴィルからは暗黒街のハードなドラマをクールに描くメルヴィルタッチを受け継いでいる。 『不死身のコプラン(1968)』で長編監督デビューした彼にとって『汚れた刑事』は3作目。本作で扱われるのは警察の腐敗だが、以降『影の暗殺者(1972)』ではモロッコの政治家ベン・バルカの誘拐暗殺事件、『ザ・コモン・マン(1975)』では人種差別問題を扱うなどタブーに切り込む作風が持ち味となっており、そのきっかけとなった作品が『汚れた刑事』である。1968の五月革命直後には映画に暴力的であったり証拠を捏造したりする警官が登場することはしばしばあったが、本作ほど問題になった作品も珍しい。暴力的な訊問、警視正による犯罪者の放置、警察組織の腐敗を描いた本作は、当時の内務大臣の圧力により該当箇所のカットや撮り直しをしなければならなくなり、制作や上映の危機もあったが検閲の件が話題となり逆に大ヒットとなった。