【嫌われる勇気】
訳ありなファッション・デザイナーとその召使との主従関係にメスを入れたファスビンダーの野心作。ファスビンダー作品の中では「痛い映画」と「痛々しい映画」と二分化される訳だが、どちらかと言うと本作は後者。
結局この世界は支配する者とされる者。そういったグロテスクな「主従関係」のみに焦点を当てたファスビンダー自身の戯曲を映画化した、ブラック・ユーモア精神溢れる女同士の愛憎ドラマである。
たしかに雰囲気的にベルイマンの感じもあるのだが、どことなく堕落したカール・テオ・ドライヤーの『ゲアトルーズ』みたいな印象もある。元々が戯曲なので密室だけでストーリーが展開していくのだが、その映画的造形の豊かさには舌を巻く。マネキン人形とルネッサンス絵画をバックに女のエゴと嫉妬心がぶつかり合う。
屋内セットだけ観ると何やら異様な雰囲気が漂っている。非現実的というか、騙し絵的というか、ベラスケスの絵画「ラス・メニーナス」みたいな謎めいた意匠が感じられる。やはり本作も深刻ぶってるだけではなく、思わず哄笑を呼ぶシーンもありコメディとしても上出来。
これは元戯曲だけあって台詞中心であり、ミヒャエル・バルハウスのカメラが縦横無尽に屋内を撮っている辺りの映像による快楽を堪能することが出来れば全く退屈しないメロドラマの逸品となっている。ラストの決別の場面が実にブラック・ジョーク的で、やはり一筋縄ではいかないファスビンダー・マジック!✨