石

IT/イットの石のネタバレレビュー・内容・結末

IT/イット(1990年製作の映画)
2.1

このレビューはネタバレを含みます

 itとは超現実的な存在であり、端的に言えば子どもを喰う宇宙人。この作品ってその悪と戦う7人の話なんですよね。原作だとピエロ姿がフォーマルではなく、その子どもが恐怖する様々な姿形に変化していたようですし。そしてその恐怖を養分にしていたと。ただその宇宙人が悪を担っていることが本作の面白いところなのだそう。

 子どもの頃の恐怖体験や疑念がもし本当に邪悪な存在のものであったなら。殺人・差別・貧困、これらを理不尽ながらも受け入れないといけない、スティーブン・キングが生まれ育った土地(時代?)はそういった空想物語で片付けたくなるような問題を多く孕んでいたそう。ピエロが子どもを殺すというのも、実際の男児連続殺人事件から着想を得たとのこと。それらを、思春期から大人にかけての人の繋がりと絆の物語として語ったということは、これが現実の諸問題への提起というか、本来大人が行うべき事、人としての在るべき姿を描いてみせたという事ではないでしょうか。そうであることが邪悪な存在ですら打ち倒せ、世の中の理不尽を打ち消せると。言い知れない恐怖に対して大人を当てにすることができない事と、その体験を経た大人に対してこうあって欲しいという願望というか優しさというか。原作小説では舞台となるデリーが最後洪水で無くなるのだそうです。町ごと人間ごと作り変えるべきだという極論でありますが、きっとそうでもしなければ世の中が変わることは無いのだとスティーブン・キングは思ったのでしょう。だからピエロのホラーを前面に押し出すこと自体が、原作の本来の意図とは食い違ってるのかなと思ったり。そもそも一言でホラーと括れない作品なんですよね。

 子どもを殺す化物のホラーであることより根深い問題を語っていたであろう原作と打って変わって、1990年版はなにか焦点がずれているような気がしました。ピエロのホラー要素を盛れば盛るほど正体の蜘蛛が陳腐に見えるのは道理です。アイコン的なものを作りたかったのかどうかまでは知りませんが、それ自体は成功してますね。ただしそのせいで観る側には単なる化物退治に映ってしまってるのが残念なところ。また、原作にあった団結の為の"麻薬"とか"乱交"とか、絆を深め合うためのこれらの行為は過剰さが青春劇的な良さが出ていたと思うので、変更はどうしてもマイナスに見えてしまうかなと。2夜連続放送のTVドラマとして作られたため、過激な表現はできなかったのでしょうか。ティム・カリーの怪演は素晴らしかったですが、もう少し原作のテイストを再現できれば良かったのになと思ったり。
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