ろくすそるす

人魚伝説のろくすそるすのネタバレレビュー・内容・結末

人魚伝説(1984年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

 静謐で瑞々しい映像美の海女ノワール。だが、底に沈むのはどろどろとした生々しい情念の暗い炎だろう。女の復讐劇として見ると犬を殺されたソープ嬢が議員をマラソンで追いかける、大物脚本家・橋本忍監督の異色作『幻の湖』とも共通する。その孤独な危険さと思い詰め具合において。
 田舎の漁村町の名士である土木会社社長が原発設立のために、反対者を暗殺してゆく。その現場を目撃したがために、夫を殺され自らも命を狙われたアワビを撮る海女。そこから、リベンジの物語が紡がれていく。
 土建屋の息子・清水健太郎との絡みなど生々しいエロスや殺しのシーンの臨場感ある演出(過剰なまでの鮮血の血しぶきの描写、プールで溺死させる場面)が印象的だ。
 そして最終部分。銛を改造した海女は、原発招致パーティで浮かれている奴らを皆殺しにする(あまりに殺しすぎて、『丑三つの村』の後半部分を想起させる)。
「次から次へと悪い奴が……」と海女が呟いた瞬間、機動隊(原子力に頼る国家の象徴)を大嵐がなぎ払うシーンも圧巻だが、散々殺戮のシーンの後に、ラストの昇天してゆく場面には、不思議と神々しさがある。荒ぶる神が天に召す。「原発」というホットな問題を扱った、まさに戯画化された現代の神話のようだ。