りょう

静かなる叫びのりょうのレビュー・感想・評価

静かなる叫び(2009年製作の映画)
4.4
 2000年の「渦」から9年後、かなりユニークな作風だった前作から一転して静寂が効果的なモノクロ映像の作品です。ただ、日本公開が8年後の2017年だったようで、最初に観たのは2年前でした。
 1989年のカナダが舞台です。当時の女性の社会進出がどうだったのかわかりませんが、ミソジニー、フェミサイド、ヘイトクライムというキーワードでつながる実在のモントリオール理工科大学虐殺事件をモチーフにしています。ようやく日本でも認知されてきたネガティブな概念ですが、これまで名前をもたないまでも、日本人の心理にこそ以前から蔓延してきたものかもしれません。
 ヴァレリーはこの大学で機械工学を専攻して航空会社への就職を希望していますが、面接官からはあからさまな女性差別に遭います。この事件の加害者には、自身の大学進学を女子学生の増加によって阻まれたという被害妄想があったようです。
 そうしたことを前提とした物語は、主な登場人物3人の時間軸をところどころ前後させていますが、その構成と展開が秀逸で、この事件によってもたらされたさまざまな問題をとてもわかりやすいものにしています。加害者の境遇と理不尽で身勝手な思想、被害者のPTSD・Survivor’s Guiltとその顛末、ヴァレリーの将来にまとわりつく恐怖とかすかな希望…。どのシーンもとても客観的な視点が徹底されています。こんなにおぞましい出来事を主観的に表現することはできないし、観客にこの事件の顛末を考察するよう促しているような印象です。
 モノクロ映像でも被写体が明瞭で美しく、どのシーンも構図がきっちりしています。どこか暗示的な90°や180°に回転するカメラアングルも印象的です。2回目を観ると、次の展開がわかってしまうので、全編にわたる緊張感がさらに持続的に増幅してしまいました。かなりしんどい描写が少なくないので、77分が限界かもしれません。
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