マーくんパパ

熱波のマーくんパパのレビュー・感想・評価

熱波(2012年製作の映画)
4.0
世界には自分がまだまだ知らない異能な作家が多い事に驚きの今日この頃。第一部「楽園の喪失」と「楽園」の二部構成で1人の年老いた女の今と若き日の過去を描く。リスボンのアパートで黒人メイドとひっそり暮らすやや偏屈な老女アウロラ、娘とも疎遠で外との交わりもなく隣に住むピラール夫人が心配して食べ物をお裾分けしたりするくらいの孤独な毎日、クリスマスも新年も何も変わり映えなく過ぎていく淡々とした描写が続き死期近い今際の際に1人の男に知らせてとの言付けを受けるピラール。二部では時が50年以上遡った植民地時代の熱暑のアフリカが舞台、若かりしアウロラの周りには絶えず男たち友だちが寄り集まる。その中の1人と結婚するが遅れて友達となったジャン・ルカと後戻りできない灼熱の不倫愛に陥り夫の子を妊娠していながら2人で逃げる…。ジャン・ルカによる墓前での回想、前半がとても静的で沈んだ暗い室内、後半はカメラサイズも変えて8ミリ思い出映像のような粗い画面だが躍動的な映像に切り替わるその落差が鮮やか。一陣の強烈な熱波が降り注いだ人生とその後に訪れた永い悔悟の人生 “♪命短し恋せよ乙女♪”とは言い切れない人生縮図を鮮やかに掬い取った印象深い佳作。後半のタッチは懐かしトリュフォーの『突然炎のごとく』を思い起こさせた。