かーくんとしょー

言の葉の庭のかーくんとしょーのネタバレレビュー・内容・結末

言の葉の庭(2013年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

初めて観た時以来、録画で何度も鑑賞。
雨がストーリーの主役になっているため、雨の日になると定期的に観たくなる一作。

約五十分という短さも気楽に観るのに最適。
作中では万葉集の歌が引かれ、短編の簡素なストーリーに奥行きを持たせている。
そう、これが正しい本歌取りだよ。どうして「星を追う子ども」はああなってしまったんだ監督!

作品が始まると、まずは池に降る雨とその上で揺れる枝が映し出されるが、そのあまりに美麗な絵に衝撃を受ける。
新海誠監督は人物画は所謂ヘタウマ系だが、背景の描写は恐ろしさを覚えるほどリアリティーがあるのが特徴。

ストーリーは、将来の夢と現実のギャップに苛立つ高校一年生の主人公・タカオが、仕事もせずに昼間から新宿御苑で酒を飲む若い女性・ユキノと、雨の日限定の交流をする中で精神的に成長する話。
なのだが、ユキノ側から見ると、生徒やPTAからのいじめで病んでしまい学校に行けなくなった国語教師・ユキノが、若いツバメを捕まえ、彼に求められることにより、精神的に救われる話。
文章化するとなかなか酷い(笑)。

しかし作品のラストでは、本来は住む世界が違った二人は、遠い町に離れて暮らすことになった。
この会えない時間は、それまでのような次の雨を待っている会えない時間とは意味合いが異なる。
次の再会は他力本願では成し得ず、だがいつかタカオが大人になり自らの足で赴けば、今度こそ永遠に一緒にいることももしかしたら許されるかもしれない。
そんな意志を持つ離れ離れの時間なのだ。

本来重なり合うことなどなかったはずの二つの人生が、気まぐれに一瞬交差したこと。
その偶然性によって、二つの人生が永遠に変わったことが、雨を小道具にして美しく表現されていると思う。
短編映画ストーリーの構成を薄くせざるを得ないため評価が難しいが、本作はその短さを雨の時間の短さと重ね、巧みに利用している感すらある。

さらに深読みするなら、そんな短い偶然による奇跡のようなものは気付かれずにきっと世界に溢れているからこそ、ストーリーなど取るに足らず、また切り取る必要もないのだろう。
鑑賞者はただ、偶然性や一回性という人智の及ばぬものを恨めしく思いつつ、またそれが齎す甘美な奇蹟に思いを馳せればいいのだ。

written by K.
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