騙されてはいけない
『妻と義母』というタイトルのだまし絵があって、
振り返る若い女性にも、正面を向く老婆にも見えてしまうという不思議な絵。
有名なので一度は目にしたことがあるかと思います。
ふと、戦争映画ってこんなだまし絵に似ているなと思ってしまいました。
2008年、北京オリンピックの裏で起きた南オセチア戦争を舞台に、
戦場に取り残された息子のもとへと死に物狂いで助けに向かう母親の受難。
南オセチアの独立をめぐって古くから紛争の火種が燻り続けていたグルジアとロシアとの国境線。
激しい空爆や地上戦が5日間も続いたため5日間戦争とも呼ばれている21世紀に未だに残る領土問題は、
兵士だけでなくもちろん民間人まで巻き込んだ正真正銘の戦争。
グルジア側、ロシア側共に相手方の非を責め合い、
最終的にはグルジアが、領内のアブハジア、南オセチアの独立をのむ形で、グルジアが割りを食ったような結果となる。
その後遺症で現在も両国の対立は根強く続いている。
こういった国際情勢の中で立場の異なる二つの映画が作られ、
その片割れなのがこの作品。
ロシア側の視点で、グルジアを加害者に仕立てた言わゆるプロパガンダ映画。
ロシア軍全面協力との触れ込み通り、戦闘シーンの迫力は近年の戦争映画と比べても特筆すべきものがありました。
飛び交う銃弾の音、戦車やRPGの砲弾で砕け散る壁、地上で爆発するミサイルの噴煙。
どれもが本物志向。
いや、序盤の空爆シーンにしても正直半端ではないクオリティー。
その臨場感はこの映画の一つの見せ場となっていました。
ただ、その合間を縫ってロシア流の表現力が冴え渡る所に、
ハリウッド映画とは違った魅力があります。
水溜まりに反射して写るミサイルの軌跡や、
ジュッと水分を蒸発させる熱を帯びた薬莢に、
浴びせられた銃弾でぼろ布のように弾けるブーツ。
こんな些細な描写に工夫を感じてしまいました。
そして何よりも、
戦争を少年の視点から捉え、彼の妄想で悲劇や恐怖をデフォルメするという手法。
何とも斬新な切り口で、
少年の無垢な感情を巧みに、
そして独創的に表現できていたと思います。
ただ、その少年の妄想がトランスォームしてしまう某映画の様なビジュアルなもんで、予告だけみればそっち系の映画に見えてしまう。
僕は騙されて映画館に行ってしまったくちなんですが、
やはりこの映画はプロパガンダ映画なんだと思います。
或いは多少の譲歩を含んではいるものの自国の国際行為を正当化した映画。
でも、それがプロパガンダってものなのか。
そう、この戦争を別の切り口から描いた『5デイズ』という映画と比較すれば、
両者の立場がくっきり鮮明になる。
どちらも、視点の違い。
ロシア側かグルジア側(アメリカ側)かの違いで自己弁護をする。
はたから見れば『妻と義母』と同じようなもので、どちらの見え方にも正解はない。
どちらの立場に偏らずも戦争は戦争。
だまし絵はだまし絵。
戦争の当事国はあくまで両方だというスタンスをとれば、
若い女性や老婆、
この映画はどちらかの見え方に固執しているようで、
少し眉をひそめたくなる。
ただ。
主演の女の人がしこたまきれいなんだよな、まったく。
うん、あの人にだったら騙されても···
こらこら、騙されてはいけない。