れじみ

パトリオット・デイのれじみのレビュー・感想・評価

パトリオット・デイ(2016年製作の映画)
3.8
2013年に発生したボストンマラソン爆弾テロ事件の裏側を描く実録ドラマ。

アメリカ海軍特殊部隊ネイビー・シールズ最大の悲劇と言われるレッド・ウィング作戦を描いた傑作「ローン・サバイバー」、メキシコ湾原油流出事故を描いた「バーニング・オーシャン」に続く、監督ピーター・バーグ×主演マーク・ウォールバーグによる実録映画である。
2013年に起きたこの痛ましい事件がわずか4年で映画になると言うのは何とも驚きであるが、事件や事故が起きるたびにそれを省みて、前に進み続けてきたアメリカらしいとも言える。

主人公トミーを中心に、複数の登場人物を滞りなく描写する手際の良さ、そして彼らが今後どのような形で事件に関わって来るのか、非常に興味を惹かせる物語の序盤。
実録映画と言えばピーター・バーグが連想されるだけあって、実録映画における起承転結の起の重要さをきちんと理解している。
人物紹介が終わり、物語はいよいよあのおぞましい爆発の瞬間を捉えるのだが、まさにそれは怒涛の迫力であり、同時に悲壮感に溢れている。
この爆発のシークエンスは、「バーニング・オーシャン」で映画史に残るような爆発シーンを作り上げたピーター・バーグの、語弊はあるが、腕の見せ所である。
思わず言葉を失うほどの痛ましい事件現場、怪我人を救うために必死に動き回る警察官や救急隊員、彼らの姿を見ていると涙が止まらない。

ここまでの展開は予告を観ていると何となく想像は付くのだが、事件の全容を知らずに観ると、この後のとても実話とは思えないほどのサスペンスフルな展開に驚愕してしまう。
まさに事実は小説よりも奇なり、である。
本作ではテロの犯人も描かれるのだが、彼らの思想や背景はほぼ描かれていない。
登場人物の台詞からも察せられるように、イスラム社会に対してかなり配慮していると思われる。
本作が伝えるのは、何故テロが起きてしまったのか、ではなく、テロが起きた時、人々はそれにどう立ち向かい、どう立ち直ったのかである。

そもそもがとても実話とは思えない数奇な物語ではあるが、さらにピーター・バーグによって映画的な演出が加えられ、2時間を超える上映時間の長さを感じさせない、実に見応えのある作品へと仕上がっている。
しかしながら、何とも残念なことに、物語のラストに付け加えられたとても映画的とは言えない貧相な演出には疑問を呈さざるを得ない。
事件の当事者となった人々への感謝と尊敬のためだと言うのは理解は出来るのだが、まるでテレビドキュメンタリーかのような映像になってしまったのは残念で仕方がない。
あの映像はソフト化に際して、特典映像にでもすれば良かったのではないだろうか…。

ピーター・バーグとは3本連続のタッグとなるマーク・ウォールバーグであるが、相変わらず彼の演技には泣かされてしまう。
正直何のクセもなく、言ってしまえば勇敢であるだけの典型的なアメリカ人を演じているだけなのだが、それでもきちんと観客の心に訴えかける事が出来るのは、彼の演技力の賜物であろう。
ケヴィン・ベーコン、ジョン・グッドマン、J・K・シモンズと言う、映画における脇役が好きな層には堪らないキャスティングも素晴らしい。

前述の、事実は小説よりも奇なり、に付け加えるとするなら、テロ事件が起きた同年、地元に本拠地を置くMLB球団、ボストン・レッドソックスが6年ぶりのワールドシリーズ優勝に輝いている。
作中でもたびたび描写されているレッドソックスが地元にもたらした優勝が、人々にどれだけの感動と勇気を与えたのか、それは想像するまでもない事であろう。
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