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メキシカン・スーツケース <ロバート・キャパ>とスペイン内戦の真実のSariのレビュー・感想・評価

3.4
第二次大戦の前哨戦でもあったスペイン内戦には、軍事独裁政権から民主主義を奪取するため世界中から文化人やジャーナリストが集結した。ハンガリー出身の伝説的な写真家ロバート・キャパ(1913 〜1954)はこの地で一枚の衝撃的な写真を撮り、後世に名をなす。同行したパートナーである才気あふれるゲルダ・タロー(1910〜1937)とデビット・シーモア“シム”(1911〜1956)もまた、キャパとはまた別の視点でスペイン内戦の報道写真で活躍していた。本作は、この3人の失われた作品にまつわる奇跡の実話を緻密に取材したドキュメンタリー映画である。

1930年代にパリのラボを出てから行方がわからなくなっていた126巻のフィルム、4500枚のネガは、自由を求めて闘ったがゆえに故郷を離れ難民にならざるを得なかった無名の人々の手を経て2007年にメキシコで発見された。西欧、中南米そしてNYを結ぶ感動的な作品というだけでなく、戦争の悲惨さを今なお痛切に訴える。

難民生存者たちのインタビューが多くを語る、スペイン内戦の史実を学ぶ資料価値が高いドキュメンタリーと言えよう。
発見されたネガが入った厚紙製の箱をマス目に区分され収納された4500のフィルムは、撮影日時・場所をケースの蓋の裏に明確に記入されているのが驚きで、70年以上経過したとは思えぬ保存状態で美術品としても見栄えを成している。

なお、キャパが撮影したと信じられていた有名な写真「崩れ落ちる兵士」の本当の撮影者は、ゲルダ・タローとのこと。男性の陰に隠れるようにして女性の社会進出が抑圧され続けた時代の一つの象徴が本作でも垣間見られたのであった。
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