nowstick

ミシマ:ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズのnowstickのレビュー・感想・評価

3.8
「三島事件の当日」「三島由紀夫の生い立ち」「三島文学の映像化」の3つの時間軸を交互に描く映画。

三島由紀夫の金閣寺の映画化作品である「炎上」のレビューにも書いたが、三島作品の映像化は難しいと思う。思想が強すぎておかしくなっていく描写を小説で書くのは可能でも、作り手の数が多い映画では、スタッフ間で思想を共有しづらいだろう。また、三島文学は三島由紀夫本人の魅力と作品の魅力が同化しているため、物語だけ切り離して映像化しても中途半端になってしまう。
しかし、本作は三島由紀夫の人生と三島文学の関連性を、その二つを交互に描くことで分かりやすく見せていて、三島文学の良さを損なうことなく映像化出来ていたと思う。

また、三島文学の映像化のパートは、スタジオに作られた美術的で簡素なセットに、役者が数人出てきて演じると言う、映画ではあまり見たことがない、舞台みたいな演出がされていた。そもそも文学は紙の上に文字が書かれてあるだけで、それ以外は読者の想像によって補われている物だし、文学の先祖は舞台であるため、こういった手法で魅せることは正しいと思うし、アイデアとしても面白かった。

美術や映像といったビジュアル面においても様々な工夫がされていた。本作の監督であるポールシュレイダーは脚本家出身の監督だから、「ストーリーは面白くても、映像表現としては簡素な映画になってるのかな?」と勝手に推測して、本作を鑑賞したが、むしろ他の映画と比べても、映像に拘っていて驚いた。調べてみると、同じくポールシュレイダーが脚本を書いたタクシードライバーにおいても、映画の最後の方の売春宿を天井から見ていくワンカットのシーンは、脚本の段階でそう撮影するようにと指定されていたと聞いて、本作の映像の出来にも納得した。

でも、やっぱり三島由紀夫特有の「とんでもなさ」が弱かった気がする。
まあ、そんなのを期待する自分が悪いのかも知れないが。
nowstick

nowstick