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オスロ、8月31日のfwhiteのネタバレレビュー・内容・結末

オスロ、8月31日(2011年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

ノルウェー出身の映画監督ヨアキム・トリアーの長編第2作。日本ではトーキョーノーザンライツフェスティバル2015で公開された。アップリンク吉祥寺の「見逃した映画特集2019」にて鑑賞。
麻薬依存の治療のため施設に入っていたアンデシュ。仕事の面接のために外出許可を得た彼は、オスロの街を回りながら旧友らを訪ねる。
アンデシュの24時間を静かに追った作品(音楽も劇中曲以外は使用されていなかったはず…)。麻薬に人生を滅ぼされた人間の苦悩の物語と片付けてしまうにはあまりに彩り豊かで味わい深い。不安定過ぎる存在意義を探し求める旅であり、傷つけた恋人や家族と向き合う挑戦であり、はたまた(面接やパーティのシーンでは)偶発的に他者の心に刺激を与えたり、癒したり…まさにオスロという街の中に彼が息衝いた時間が刻まれている。
冒頭に流れる、フィルム撮影されたオスロの街並を繋ぎ合わせた映像と、街と自身の思い出を語る人々の声。全てが終わった後、映画はアンデシュが辿った旅路の風景を遡るように映し出していく。それがたとえ無人の風景であっても、街が全てを見聞きしていたように、私たちはそのひとつひとつにドラマがあったことを知っている。
カフェでアンデシュが周囲の人々の会話を部分的にキャッチしていくシークエンスが素晴らしい。やがて外を歩く若い男性や買い物帰りの女性をカメラが追い、最終的に物憂げな佇まいに行き着く。他者の人生をつまみ食いする細やかな歓びと、その奥に広がる決して理解されない心。
トーマスと妻の前で、アンデシュは施設で経験したロールプレイング型リハビリについて語る。それは、別の患者がトーマスの役になって、アンデシュにドラッグを勧めるというもの。さらに、トーマスは妻と「バトルフィールド」をプレイした話を語るが、後にヘロインの売人の部屋で再び「バトルフィールド」が登場する。トーマスはアンデシュを薬物中毒の道へ引き込み、自身はそれなりの幸せを掴んでしまったということなのだろうか(それが申し訳なくて妻との不仲を語っているようにも取れる)。
映画の冒頭でアンデシュは入水自殺を図って失敗する。終盤で共に飲み明かした陽気な3人が、こぞってプールへと入っていく中、アンデシュは一人立ち去る。偶然かもしれないが、水のイメージが重ねられているように見える。
原作はピエール・ドリュ=ラ=ロシェルが1931年に発表した小説「ゆらめく炎(Will O' the Wisp)」で、ルイ・マルが1963年に『鬼火』として映画化している。
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