櫻イミト

裏切りの季節の櫻イミトのレビュー・感想・評価

裏切りの季節(1966年製作の映画)
3.5
当時28歳の大和屋竺(あつし)が若松プロで撮った監督デビュー作。ピンク映画ジャンルの反戦アート映画。脚本は大和屋監督と田中陽造の共作。音楽は佐藤允彦。

べトナムから報道写真家の中谷(立川雄三)が帰国する。友人の長谷川を戦場で亡くした彼は、長谷川の恋人だった眉子のもとへ向かう。一方、長谷川の遺したフィルムを手に入れようとする組織が中谷を追っていた。。。

これまでに観た大和屋監督作の中ではベスト。巨大なベトナム戦場写真をシンボルに、”日本フィルム・ノワール”といった趣の表現主義的な映像が繰り広げられる。シナリオは観念的だが、以後作に比べたら解釈可能な範疇で書かれていて最後まで物語として楽しめた。

密室をベトナムの戦場化し男性性に加害の概念をダブらせた復讐譚。このイメージの構図は、以後の若松プロ作品の基本フォーマットとなったように思う。実際、若松孝二監督は本作に衝撃を受け発奮し、直後に足立正生と「胎児が密猟する時」(1966)を撮る。

本作には若松孝二(当時29歳)と足立正生(当時26歳)がカメオ出演。そして当時『映画評論』編集長だった佐藤重臣(当時33歳)がチョイ役で出演している。佐藤は後に「黙壺子フィルム・アーカイブ」と称して自ら所持するアングラ・フィルムの定期上映を行っていて、その目玉は「フリークス」(1932)だったが、本作での佐藤の芝居は同作を意識しているように見えた。

当時の資料に大和屋監督による本作の製作意図が載っていたので一部を再掲しておく。
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ベトナムの戦火は対岸の火事ではない。などとうそぶくことは虚しいことです。
なぜならば日本は、東洋の中の西、アジアの盟主という美名を貰うことで、ベトナムを見捨てているからです。
人々がこんなにもベトナムの殺戮を愛したことは、かつてありません。そこに流された血の色は、人々の居心地よい住まいを飾る、異国趣味でいっぱいの壁掛けの朱であり、華やいだ娘たちの口紅の色です。
そこで射止められた農民の瞬時の肉のひつれこそ、モンキーダンスにしびれるあの若者のズボンの下の勃起です。
私たちは、私たちの意識の表層をめまぐるしく走る規格品のイメージを、突然バッタリと止めることを求めます。すり減った網膜に新しい発芽が始まりついにベトナムからの肉声がここに届くまで。
櫻イミト

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