中島晋作

ティグレロ 撮られなかった映画の中島晋作のレビュー・感想・評価

4.9
サミュエル・フラーのドキュメンタリーである。と同時に、フラー幻の映画を体験できるという至福のひとときであった。喋るフラーかわいい。

ジム・ジャームッシュがフラーに同行して、かつてのロケ地アマゾンを訪ねる。そこでフラーは映画『ティグレロ』のため様々な素材を撮りためる。企画には、ジョン・ウェインをはじめ錚々たるメンバーが集まるも、保険会社が難色を示したことで映画が撮られることはなかった。しかし撮られた素材はフラー自身によって『ショック集団』のなかに生きることになる。

映画『ティグレロ』は「食うか食われるか」の世界を示すことから始まる。鳥はワニに、ワニはピラニアに、ピラニアは鳥に食われる。まさにフラー的世界観である。この映像は映画の最後にも映され、その円環を閉じるものだったという。

40年ぶりにブラジルを訪れたフラーは、かつて被写体としたインディアンのカラジャ族の人々に、昔この地で撮った映像を見せる。ここは感動的だ。みんな食い入るように映像見つめる。そこにはもう死んだ親や仲間の姿が写っているのである。

面白かったのは、ドキュメンタリーでありながら、ジャームッシュもフラーも演技をしていること。また、『ティグレロ』の概要を説明するフラーがほんとうに楽しそうでかわいい。一方ジャームッシュは、彼の映画のオフビート感をそのまま体現していて笑ってしまった。ジャームッシュは最後、ブラジルの地に残る(もちろんフィクションである)。アマゾンに魅せられてしまった彼は、この後『デッドマン』を撮ることになるだろう。
中島晋作

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