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南京!南京!のeのレビュー・感想・評価

南京!南京!(2009年製作の映画)
3.9
南京事件の犠牲者数については未だに諸説あり、最早特定する事は不可能に思える。だがそれをいい事に、日本国内では事件そのものをなかったとする歴史修正主義的な考えが蔓延っており、あったなかったレベルの論争にもならない罵倒の応酬が繰り返されている。中国政府の公称犠牲者数30万人が、多くの歴史学者の推定より過大な人数であることも、日本国内の反発を煽り歴史修正主義に拍車をかけている部分があるのも事実だろう。

しかしながら、被害者である中国のみならず、加害者日本側の当事者の証言も数多く残されており、国際的な歴史学の世界では南京事件についてはあったとするのが通説だ。そうであれば、残された資料などに基づき、この事件を映画でどう表現するかは、あとは監督のさじ加減に委ねられる部分が大きいのではないだろうか。

ここで描かれる虐殺や暴行の様子が、どの程度史実なのかは素人には判断のしようもない。事実であれば相当に凄惨な出来事であり、日本人としては、幾らなんでも、、という気持ちが湧いてきてしまうのも仕方ないところ。しかし例えば、繰り返される日本軍による婦女暴行を抑止しようと、軍が慰安婦を半ば脅迫的に公募するシーンなどは、安全区で現地人の保護に携わっていたアメリカ人宣教師の日記に記述されている事実らしく、そうなると他の凄惨なシーンもなんらかの資料に残されている事実なのだろうか、と、一種のモヤモヤ感が残る。自分は特に右的な考えはもってないが、やはり自国の蛮行を見せつけられるのはあまり気持ちのいいものではない。

しかしそういった諸々の感想が出てくるのも、この映画が歴史に対して誠実に向き合い作られているからではないだろうかと思う。勿論中国政府の公称犠牲者数を踏襲しなければ映画の許可が降りなかっただろうし、ラスト近くの日本軍の祭りの様子などは「ん?」と思ってしまうが(しかしこのシーンが結構凄い)、少なくともこの映画は単に「反日プロパガンダ」と切って捨てられるようなものではない。

中国戦線は確かにこの映画で描かれているような略奪と暴力の嵐であり、それを行った日本人も鬼ではなくそれぞれ一人の人間だった。本当に情けないのが、この映画は近所で気軽にレンタルもできないし、今の日本では南京事件を題材にした映画を撮る事は、ほぼ不可能だろうということ。
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