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ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマンのhiのレビュー・感想・評価

4.3
フランスを代表するシャンタルアケルマン、女性監督の代表作品。のちに、トッドヘインズや、ガスヴァンサントに影響を与えたといわれる、アケルマン。初見でしたが、ただの生活描写がやがて拷問の様な苦痛にも思えてくる、、こんな体験型映画になるとは艶知らず、、。最後は呆然としました。。。まだ観てない方はネタバレ無しで観るべき映画です。


ある女性の生活のたった3日間を切り取り、その毎日が1日目、2日目、3日目、と少しずつ違う、ただそれだけの映画。




〜以下ネタバレ内容あり感想〜

毎日きっちりと髪を整え、品の良い服を着て、息子を朝起こし、隣の家の子供を預かり、その後、夕食を作り、息子と食べ、散歩をして、眠りにつく。
一見なんてことない毎日を続けている様に見えますが、冒頭のシーンから彼女が自宅に男性客を引き入れ、そこで仕事をしている所から、この映画は始まります。
家の構造上、寝室に入っていく事と、後に身体を洗っていることから、性的なサービスをしていることは想像が着きます。※2日目の男性との後に髪が乱れているのを見るとそれが明白。
とてもじゃないが、売春をするような女性には見えないのですが、夫を6年前に亡くしてることがわかります。息子は母親の仕事内容に気が付いていない様子。
完璧な母親を信じて疑わない。
息子は亡くなった夫との馴れ初めをきくと、「不細工で好きでもない男として寝るなんて自分が女ならできない」と、清廉な発言をします。
それに対して、彼女の言葉は
「男と寝るなんてそんなことは大したことではないのよ。」 多くは語らない女性ですが、明らかにこれが何を意味するかが後にわかってくる。この息子との関係もちょっとおかしい事が途中でわかりますが、年齢の割に、子供?というか、生活の全部が母親任せであり、ストーブをつけるのも、コートをかけるのも、ご飯の準備も片付けも、洗濯ものも、何もかも母親がやるんですよね。そのくせ母親の服装や髪が少しでも乱れてるとすかさず指摘するのを察するに、母親(女性)は完璧であることが当然であり、それ以外を受け入れないことが伺えます。(こーゆー男性いますよね、実際)
なぜその様になったのかは、彼女自身が、その様に振る舞ってきたからに過ぎませんが、バタバタと動き回る母親に対して本をのんびり読んでるだけの現実を見ていない息子に腹が立つ。母親がなんの仕事をして親子二人生活できているのか疑問ではないのだろうか?淡々とすすむのに漂いはじめる違和感。

たった3日を切り取った映画なのにもかかわらず、永遠にも思えるような長回しの連続。この一見、穏やかな日常に見える地獄から早く解放してくれと願ってしまう、、、そう、もう赤ん坊が泣きまくるところぐらいから、いよいよもって辛い(でもちょっとあの演出は笑えた)彼女にしては珍しく、ハサミをしまいそびれるところから、そのほころびが狂気に繋がることは明白で、もはやそれは期待であり、、そう、殺人に至るまでの約三時間、最後は主人公の殺人欲求に同調し、それが行われたときに、一瞬の高揚感と、それが行われたことにホッとしている自分にゾッとしました。しかし事後も長い長いワンカットが差し込まれ、また横たわる膨大な時間があり、なにも変わっていないようにも思えてくるのです。


3時間20分、、、これは映画館に缶詰にされてないとみれない、、、その閉鎖感があってこその映画だったと思います。

今の現代にも通じる当時の女性の置かれてきた環境や価値観の描き方、75年にこんな狂気を撮っていたアケルマン監督には驚くばかりです。
時間の流れを撮ることによる体験型映画として完全に成功している映画でした。

ただそこにあるのは生活音、固定のカメラアングル、台詞の少なさ、徹底的に感情移入させる要因を排除し、ただ観察させるだけのこの撮り方は、異常にも思えなくもない。個人的にはミヒャエルハネケを観た時の不快さと心地よさの同居にかなり近かったです。

2度観ることはないにしても、本当に素晴らしかったです。
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