3丁目のタマ

小さいおうちの3丁目のタマのレビュー・感想・評価

小さいおうち(2013年製作の映画)
5.0
なんでこんなに染みるんだろう…。本作は、戦時中の不倫映画の一言では片付けられない。小さいおうちで起きた出来事は、誰かが悪いとかではなくて、戦争が人々に次第に歪みをもたらして起きたこと。そんな中、従順に慎ましく生活していた女中が主体的に選択をした時、ある事件が起きてしまう。

奥様役・松たかこ、女中役・黒木華が素晴らしく、決して多くは語られないけど、それぞれの気持ちが手に取るようにわかり、後半は涙腺が緩みっぱなし。現代は、自分で決めるのは当たり前だけど、当時は決められることはほんのわずか。女中が人生で初めて自分で選択したことを後悔し、その後は選ぶことを放棄してしまう。小説「こころ」や映画「つぐない」にも似た人のすれ違いによる業を描きつつも、さすが山田洋次監督人々に対しあくまで優しくラストはとても前向き。なので、ぜひ見てほしい。

夏はカルピスを飲んで、お正月にはお客さんをたんと招いてお雑煮を食べたり、季節の風物詩が話を彩どっていた。また、昔は自家用車なんてないから子供をおぶって遠くのお医者さんに通ったり、天気予報はないから台風が去るまでどきまきしながら皆で布団を近くに敷いて寝たり、不便さが人と人との距離を近づけていたのかも。そんな素朴なところが個人的に大好きな映画。