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小さいおうちのmaiのレビュー・感想・評価

小さいおうち(2013年製作の映画)
4.0
最後の最後までタキの想いは秘められたままで…そこが最高にいい余韻になってました。
タキが想いを寄せていたのは板倉さんなのか?それとも時子なのか?…完全に鑑賞者側に想像させる展開でしたが、タキは恋愛にも似た感情(慕っている、という範囲を超えた)を時子に寄せていたように思います。
でもタキと時子の別れのシーンも何だか奥様とタキとの温度差を感じて…それがどういうものに起因したものなのかは分からないけれど、もしかしたら奥様も薄々タキが手紙を渡していないこと(もしくは、板倉さんのこと…?)に気づいていたのかなぁなんて思ったりもします。
そういう想像が見終わった後も続いて、余韻にどっぷり浸れます。

本人たちにとっては一大事件だけれど、多分この家を離れてみればそれは「小さなおうちで起こったよくある話」に過ぎず、そのどこか日常味を帯びてるところが好きでした。ただ、少しずつ戦争の影が近寄ってきて…その暗さがなんとも言えなかったです。
奥様と板倉さんの秘密の恋が実らないことを知りつつドキドキもするのですが、どちらかといえばタキの想いの行く先の方が気になりました。でも不倫なのに、ドロドロした感じはなく最後まで慎ましく奥ゆかしいような映画で…ザ・日本映画という感じのストーリーと演出が素敵です(普段は「日本の押し売り」のように感じて好きではないのですが…)。
現代パートは話をする上では必要なのだけれど…最後の坊ちゃんとの会話はどうしても好きになれなかったです。過去パートはあんなにも奥ゆかしくって素敵なのに、自叙伝が不倫をテーマに含んでると知りつつ、それを遺族(奥様の息子)に見せて、手紙も読み上げ…妻夫木聡以上に赤の他人である彼女は興味津々で話を深掘りしていく…最後の最後で人の恋愛事情に興味を掻き立てられる厭しい姿を見せられて、そこの後味の悪さはありました。もちろん!タキの涙の真相や深い後悔をほのめかすためには必要なシーンですし、奥様の息子でさえ感知できないくらい不倫は本当に秘密裏であったことを知らしめることも出来ているのですが。

上の好きになれないシーンを除けば、本当にストーリーから演出からキャストから…なにもかも素敵な映画でした。
不倫なのにドロドロせずに人を引き込む話にできてしまう山田洋次監督ってなんて素晴らしい方なんでしょう…。

キャストに関しても素敵な配役でした。
松たか子は溌剌とした感じの若奥様って感じで、誰しもが惹かれてしまうのは納得だし、吉岡秀隆の幸薄そうな役も魅力に溢れていました。倍賞千恵子の語りも良かったです…久石譲の音楽と合わせて、雰囲気は完全なるジブリでした。笑
黒木華はやっぱり和服が似合うな〜と再確認もしました。日本人が思うザ・日本人の役が似合う女優さんだし、細かな演技も得意な演技派だと思います。
黒木華さんって、どんな役をやらせても最終的には「黒木華」を離れずに演技ができる人だと個人的に思います。カメレオンではなく、どんな役であっても、その役に没入して他人に成り代わるのではなく、あくまでも「黒木華」に見えるような…そんな演技だからこそ、代えがきかないし、何回でも「黒木華が演じる」日本人が見たくなります。違うかもしれないけれど、樹木希林さんのような魅力に溢れてます。樹木希林さんも役柄は様々だけれど、どう転んでも一貫して樹木希林なんですよね…ドラマや映画によって違う見え方はしなくって、役柄は違っても「樹木希林」だし「黒木華」だし。唯一無二ですね。

何回でも観たくなる映画でした。
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