紅蓮亭血飛沫

ANON アノンの紅蓮亭血飛沫のネタバレレビュー・内容・結末

ANON アノン(2018年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

アンドリュー・ニコル監督の映画は初めてだったのですが、“TIME”や“ジェミニマン”といった近未来SF設定を得意分野とする節があるのは以前から目にしていましたので、本作もそのSF面がどのように仕上がっているか、期待を込めて鑑賞。
結論から言ってしまうと、捻られた設定と展開が目白押しで、スタッフの手腕が光る映画でした。
全編通して淡々と進む映画なので、画を介した刺激が乏しいのは否定出来ませんが、この世界観とSF描写に魅入られたが最後、エンドロールまで完走してしまう不思議な魅力に憑りつかれてしまいますよ。

個人のプライバシーが無くなった事で犯罪撲滅に大きな一手を投じた近未来、個人個人の視界映像や脳内記憶をそのまま保存出来て、他者にも譲渡出来るなんて凄い時代ですよね。
そんな時代の是非も興味深いところですが、本作が目を付けたのは“記録の無い人間”。
プライバシーといった個人の自由保護が失われた世界で、誰にも自分のプライバシーを覗かせずこの時代を生きている…なんて、とても気高い生き方で憧れてしまいます。

主人公刑事の悪戦苦闘っぷりがメインとなっているため、かつて失った息子の記憶が消去される様は本作最大の見せ場と言っていい位のドラマに仕上がっていた一方、明かされる真実、真犯人に関しての掘り下げが少々不足しているのが惜しいですね…。
視界をジャックされたり、記録を消されたりといったこの時代ならではの恐怖はバッチリ機能していた反面、登場人物・真犯人の動機が若干不明瞭だったのが残念。

ですが、全編通して興味深く鑑賞出来たのは変わりません。
ところどころこの近未来設定に疑問を抱く事はありましたが、アイディア・設定が面白く機能しているので、最後まで見続けるモチベーションが維持されていたのは大きいですね。
情報がない女・アノンとは何者なのか、その真意を理解した途端、このような社会だからこそ辿り着いた彼女の境地に複雑な心境を抱く事でしょう。

誰にも縛られない、自分にしか持ち合わせないプライバシーを秘匿出来る人生、それが一番いいのでしょうが…大勢の人間が暮らす文明社会の一人となれば、それも難しい時代がいつか訪れるのかもしれませんね。