シグのすけ

SPRINGSTEEN & Iのシグのすけのレビュー・感想・評価

SPRINGSTEEN & I(2013年製作の映画)
4.0
ブルース・スプリングスティーンのファン以外、誰が見るんだという映画。何十人かの世界中のファンが何故彼を好きかと語る。感動的な話もあるが、「ふざけんな。俺の思い出を語らせろ」と思うのが普通ではないだろうか。俺だけか。

 ロック界には何人もの音楽の天才、詩人としての天才、パフォーマンンスの天才、そのすべてを兼ね備えたとんでもないカリスマが何人か存在する。彼は違うかもしれない。彼は今、見かけは只のロック爺だ。しかし彼が歩いてきた道の偉大さは計り知れない。彼は溢れ出る言葉の洪水をロマンティックな表現でなりふり構わず若さを武器に登場した。

ニュージャージーの裏通りのチンピラの風情で路上の孤独と幸福の後に必ず訪れる不幸を歌い上げた。しかしある時期から、只のロックミュージシャンである事よりも、何か弱者の希望となり得る何者かの役を引き受ける覚悟をしたのではないだろうか。

年を取って、いくらでも溢れ出たメロディーや言葉はなかなか生まれてくれない。しかし彼は引き受けた役を誠実に引き受ける。彼がその役を引き受ける決意は「闇に吠える街」の頃ではないかと思う。このアルバムから歌詞に「約束の地」「代価は支払わなければならない」「今夜、誰かが痛い目に会う」等、その後ずっと続くキーワードが続く。

 映画評ではなくなったけど、書かずにはいられなかった。彼がこの映画では表現できない程の男だと云う事を。

1985年の代々木の初公演。アメリカでは4時間超えは当たり前だというライブは日本では消防法かなんかで短くまとめられていたが、ラストの「ツイスト&シャウト」を彼は終わらせようとして終わらせなかった。何度も何度も。ああこのまま永遠に続いて欲しい。これは永遠に続くんだと確信した。会場の照明はもう点いている。ショーは終わった。でも彼は演奏をやめなかった。今もまだ。

盟友のマイアミ・スティーブが何故マイアミと呼ばれているか記者に聞かれたスプリングスティーン「奴はマイアミに行った事があるんだ。街では奴だけだったよ。だからマイアミってみんな呼んでた。」なんだよそれ?この話が物凄く好きだ。物凄く物凄く好きだ。
シグのすけ

シグのすけ