ヨウ

ラストエンペラーのヨウのレビュー・感想・評価

ラストエンペラー(1987年製作の映画)
4.8
中国王朝最後の皇帝の人生を壮大なスケールで描く。即位時からクロノロジカル的に進むストーリーと、戦犯として自白を求められる戦後のストーリーが交差し合い、桁外れに凄まじいスペクタクルを生み出す。

幼くして自由なき選択を強いられ、成長とともに蟠りが募っていく。あらゆる空虚に見舞われた宮廷生活。葛藤を抱えながら何とか豊かさを見出していくも、激しい時代情勢の波がじわじわと襲いかかる。祖国に見捨てられ、助けを求めた日本国にも非人道的な扱いを受ける。革命を求め新たな王朝の復活を目指そうとするが、決して実現されることのない儚き夢。壊れゆく人間関係。傀儡人形としての凄惨な道のりを歩んだ先に辿り着く境地へ我々共々誘われ、非常に打ちひしがれた。全てが儀式的に進行し、"利用される"ための客体に至る。時代の波に弄ばれ続けた愛新覚羅溥儀の人生は諸行無常の極みといえるだろう。

孤独と不条理に満ちた史劇をベルドリッチらしい色彩で飾った素晴らしい歴史大作映画である。160分強という割と長尺な部類だが終始没頭して鑑賞していた。激動の渦中に揉まれてゆく人間たちの姑息さや脆さが露呈する展開は見ものだった。

中国を舞台に置きながら全編を英語で統一している点はなかなか興味深い。キャストやスタッフの異文化交流模様はまさに人種のるつぼ。東洋文化と西洋文化が融合した究極形態ともいえるだろう。アカデミー賞を総なめした理由にも納得するしかない。坂本龍一が手がける哀愁漂う音楽はいつまでも余韻を残す。非情な追憶に胸を馳せることで形容しがたいエクスタシーを全面に浴びる。今まで観た歴史物の中でもトップクラスに好き。

誰もが知るような偉人に焦点を当てたストーリーを目にし、中国史に対するさらなる知見が深まり、充実した時間を過ごすことができた。オリジナル全長バージョンにも触れてみたいし、元となった『わが半生』をぜひとも読んでみたくなった。ラストエンペラーに世界は平伏す。壮絶な生き姿を示してくれたことにこれ以上ない敬意を。



再鑑賞 2021年5月5日
ヨウ

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