葛西ロボ

her/世界でひとつの彼女の葛西ロボのネタバレレビュー・内容・結末

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

 眠れない夜にSiriと「眠れない」『電気羊の数を数えてみたらいいですよ』「子守唄歌って」『聞くに堪えないでしょうからやめましょう』とか会話している身としては、あらすじを聞いただけで主人公に親近感が湧いていたのだが、実際に観始めたら意外とそういうわけでもなかった。
 セオドアは眠れない夜に”エロイプ”するくらい人とのつながりを求めているし(その場面は現代の病理って感じでくそ笑えるが)、妻と別居中っていうだけで普段は社交的だし、人工知能OSのサマンサも最初からふつうに人間らしくて、二人は簡単に仲良くなってしまう。人間と機械という関係におけるファースト・インプレッションのつまずきが、この映画では軽々と越えられてしまうんですね。なんか羨ましい。
 そして誰もがなんとなく予想していたであろう、人間と人工知能との恋愛が可能かとか認められるかという話はそこそこに、愛し合った2人が実際問題的な障壁をどう乗り越えていくかという部分が、この映画の大きな見どころになっていく。
 そんな中で活きてくるのが主人公の代筆屋という設定。依頼人が相手に宛てそうな言葉を想像して文面を考えるという思考のプロセスは、人工知能が人間ならどうするかと考え、人間らしく振る舞う時のプロセスと重なるのだ。人間も機械も同じようなことができる。なのに機械だけが”フリ”だとどうして言えるだろう。
 また、セオドアはサマンサとの代理セックスを引き受けた女の子を拒絶して泣かせてしまうが、この女の子のしていることとセオドアの仕事っていうのは、結局のところ本当なら自分で務めなければならないことを、代理を使って仲介しているという点で似たようなものだ。代わりに言葉を貸し与えるのと、代わりに体を貸し与えるのと……後者はより柔軟な考えが必要だとは思うけど。まあ、精神と肉体の乖離なんて、ふつうの人間でもしている場合がありますからね。
 後半次第にサマンサのことがよくわからなくなっていくのはセオドアも観ている方も同じで、そこはちょっとラストにかけてクールダウンしてしまった感はある。よく気がつく秘書のような存在から、セオドアの話を親身に聞いてくれる母親のような存在へ。そして自我が芽生えることで一人の女性に。ここまではわかる。その後、仲直りのあたりで何だか神々しいことを言いだしましたよね。あなたの恐怖を取り除くとかなんとか。あそこでサマンサはある種の神になった(一つ上のステージに行った)のだと思います。
 莫大な情報を取り込みながら遺伝的アルゴリズム?で急成長を続けるOSがいつまでも人間と同じ領域に留まっているわけもなく、セオドアが彼女のことを理解できなくなるのも当たり前のこと。でも、男女が別れる時なんてだいたいこんなもんじゃないですか?知らないですけど。人間だって成長して変わっていく。サマンサの場合はそのスピードが尚更速かっただけのこと。
 非人間的なものに恋することを批判的に捉えて、現実を見ろよっていうメッセージを汲み取る人もいるかもしれないけど、僕はこれは少し変わった形ではあるけれど普遍的な恋愛を描いたものだと思います。まあ、何が現実かはともかく、自分が愛せるものを愛せばいいんですよ。自信たっぷりに。
 あと気になった点として、主人公が代筆した手紙を出版しますけど、あれ守秘義務とか無いんですかね。