Anringo

her/世界でひとつの彼女のAnringoのネタバレレビュー・内容・結末

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

とても多様な解釈のできる映画で
よかったとおもう。
映像とか演出とかはさておいて、倫理や哲学的に考えさせてくれる映画だとおもう。

まずリアルな感覚とは何かという疑問。
人工知能が現実どの様な進化形になるのかの技術面は置いといて、
仮にプログラムされたものでない
人間と同じ感情を持つOSが
完成して、それに恋をしたら、それはリアルじゃないの?肉体がないから?
カメラがあって景色を共有できても、音声で理解できても、味覚を共有出来ないならリアルじゃない?
一緒に寝たり、泳いだり抱きしめられないならリアルじゃない?
じゃあ、体があっても、目の不自由な人や、寝たきりの人と何が違うの?
自分で考えて完全にオリジナルな答えを返せるのに、脳みそがなきゃ、リアルじゃないの?
医療が発達して、事故にあった人間の脳みそだけ生かすことが出来る様になったとしたら、もとは人間だからって、それはOSとどう違うのか?

あとは、人工知能の描き方が絶妙だとおもった。
OSは肉体を持たず、スペックが違うため、同時に何万人とも会話できることを知った人間から、
俺以外の恋人が何人いるんだ?
って詰問されて、651人。とか馬鹿正直に答えるんだけど、
それって、人間の感情や行動パターンを知ってれば、適当に嘘ついて
あなただけよーとか言えば、怒らせないし、1番楽な回答なのに、
データや知識を膨大に吸収して
統計学を駆使すれば、その場しのぎに、人間の気持ちいい様に回答できるはずなのに、正直に向き合って答えるところ。
で、実際人間を怒らせて悲しんだ。
これは、実に人間的な行動で真剣な恋の対応に感じた。

あとは、感情はあるが、処理能力が桁違いで、眠らないし、人間と同じ時の流れの中にいないため、
OSは非言語でOS同士で会話することや、とてつもないスピードで進化するゆえに、逆に人間との違いに苦悩し、考えすぎなきゃいいものを、矛盾に気づいてしまい、
どこだかわからないところへ、
自殺とも言えるような形で旅立ち、
恋が終わるところも、
相手と自分の価値観だの感情の相互理解に、苦しむ現代の人間同士と大差ないとおもった。

結局は主観てこと。
自分がどう解釈するか。
映画だって本だって言葉や態度も受け取り方で変わる。
プラスにとるか、マイナスにとるか。
好きか嫌いかなんて論理や理屈を超える。
出演者全員、最後は別れて一人になるけど、
OSに限らず、他人の全てを100%理解することなんて出来ない。
その理解不能な部分をどれだけ話し合い穴を埋めていけるのかが大事。
それは努力や歩み寄りでどうにかなる部分もあったし、
一方でコントロールしきれない感情もあった。
お互いのタイミングというのもある。
科学の進歩で完全な人工知能ができたって、その人工知能も主観をもち、考え悩むのだから、人間と同じ矛盾を抱えて、感情と頭脳だけでどうにもならないっていうのが、実に感慨深いと思った。
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