三樹夫

劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 新編 叛逆の物語の三樹夫のネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

まどかが魔法少女になって戦い、目覚め、学校に行き、転校生ほむらが紹介される、テレビ版第一話と同じ始まり方をする。何かがおかしい。テレビ版のラストでまどかは神のような存在となり、実在としては消滅したのではなかったのか?同じクラスには杏子がいたり、モブの顔が表情のない人形みたいになっていると不安を煽る。しかしセーラームーンの様に変身して魔法少女5人がナイトメアと戦い、テレビ版を観てこういう安心した穏やかな世界が良かったなというファンの願望が叶えられている。しかし何か不安になる。キュゥべえの顔がアップになるカットが度々挿入され、居心地の悪さを感じる。
というようにテレビ版(あるいは劇場版総集編)を観てないと仕掛けが何のこっちゃ分からない一見さんお断りのファンムービーとなっている。キュゥべえの顔のアップで不安な気持ちになるのは、テレビ版でどれだけ暴れ散らした邪悪な害獣かを知っていないと伝わりづらいものがある。キュゥべえがアップになるということは、こいつまた何か企んでるんじゃないだろうかと思い、それが能天気な魔法少女もの世界が広がっていながらもどこか不安感に怯えるという前半の仕掛けになっている。そしてイヌカレーの演出はドライブしていき、なんかおかしいぞから完全におかしいぞという領域に突入するのも楽しい。

実はこの世界はほむらの願望がパンパンに詰まった、ほむらが創り出した理想の世界だったのだ。しかし、物語の構造の根幹をなすこの大サプライズが『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』とまんま一緒というのはさすがにどうなんだろうか。選抜した人だけを世界に入れ、自身の住む町の外には何もない、その世界では自分の理想の日常が延々繰り返されるという本当に一緒。風鈴のカット入れて『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の引用ですと示していたが、大サプライズが既存作品とまんま一緒はまんま一緒やんけとなる。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の引用して物語の構造の中に取り込むにしても、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』要素が物語の構造の根幹ではない『SSSS.GRIDMAN』の中サプライズぐらいに抑えないと、ここまでまんま一緒で、それが物語の構造の根幹をなすというのは『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』やんとしかならん。虚淵玄の脚本はあっと驚くサプライズ展開がある(元は人間だった展開が多かったりするが)という周囲の期待と、そういったパブリックイメージ、自己認識、他者認識に虚淵玄自身が囚われており、何とか大サプライズを盛り込まなければと苦しんだように感じた。
サプライズに、魔法少女同士の戦闘に、ほむらのまどかへの想いという泣き所も入れてというので色々てんこ盛りになっており良く言えばサービス精神が豊富なのだが、誰がこの世界を創造したんだと推理する名探偵ほむらをやったかと思えばすぐ後に、ほむらのまどかへの想いという泣きのパートが入り、ほむらの情緒がすごく不安定。ハラハラさせたいのか燃えさせたいのか泣かせたいのかチグハグになっている。この情緒の不安定さは色々てんこ盛りにした弊害かと思うが、この映画は基本的にほむらの内面世界の話なので完全にヤンデレと化した悪魔ほむらの精神状態を表していると言えないこともないが。
ほむらのまどかへの愛といったような映画だが、あれは愛ではない。ただの独占欲。次回作がどうなるのか分からないが、あれを愛だと描くのはさすがにキツいと思う。ストーカーを違う愛の形というようなもんだし。ただし作中のほむらのまどかへの愛を愛として提示することは10何年前ならいけたと思う。しかし独占欲、支配欲や他者との関係に対する認知や意識の変化した今となっては、ほむら自身は愛だと思っているが独りよがりという視点を入れて描かないと作り手の認識のアップデート不足を指摘されると思う。極端な例を言うと、今の時代に男はこう女はこうと言っちゃうみたいな、うわっこいつアップデートできてねぇと作り手に対する残念感が発生する感じ。ただ、あれを愛ですと言い切って描くとそれはそれで異常な作品になり、記憶に残る作品となるかもしれないが。

テレビ版を観てこいつだけは許せねぇと誰もが思った害獣キュゥべえだが、その薄汚ねぇ口閉じてろゴキブリとボコボコにされるやっと待ち望んだ瞬間がやってくる。ほむらの理想世界パートでは人語を発することはなかったので、こいつの口から発せられる言葉は邪悪そのものという認識だったのだろうな。
ほむらは私とまどかで一つという認識なので、ラストの半分に欠けた月はまどかを独占できなかったほむらの欠けた心情を表している。月の欠けている部分は独占できなかったまどかを示している。
ボロボロになったキュゥべえが映し出されて映画は終わるが、次作でまどかを独占するため、ほむらはキュゥべえと手を組むということを匂わせているのかな。
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