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遥かなる勝利へのodyssのレビュー・感想・評価

遥かなる勝利へ(2011年製作の映画)
4.0
【誰も罪なくしては生きられない】

『太陽に灼かれて』と『戦火のナージャ』に続く三部作の最後を飾る作品。

ミハルコフ監督ならではの映画作法は相変わらず。独ソ戦で、ドイツ側の陣営から始まるのですが、ドイツにふさわしくワーグナー(タンホイザーですか)が鳴っている。そして蚊が飛んでいる。野戦だし、蚊がいるのは当たり前ですけど、この蚊が次はソ連部隊の様子を映し出す目になるところが面白い。また、最初のドイツ軍陣営は最後にも出てきて物語を締めくくる役割も果たしています。

そのソ連軍のほうは飲んだくれの将軍がむちゃくちゃな突撃命令を出してしまう。ダメなソ連軍を象徴するような場面。命令を出される側には、スターリンの粛清を逃れて兵卒になっているコトフ大佐もいる。しかし、彼を迎えにやってくる人物が・・・

このあと、コトフ大佐の家族関係や、スターリニズムの中で彼が何を強いられたか(ここはちょっと物足りなかった。もう少し時間をかけて欲しかった部分)、そしていったん粛清の対象になったはずのコトフ大佐は中将に昇格して新たな命令を下されます。しかし、それがまたスターリンの命令ですから、つまり・・・

ドイツ軍が自滅するところもミハルコフ監督らしいのですが、結局コトフは娘と再会するものの・・・。

スターリニズムの時代、人は罪なくして殺され、生き延びた者も何らかのトラウマを抱えて生きなくてはならなかった。本作品はあくまでミハルコフ監督らしいユーモアと語りの楽しさに満ちてはいますが、最終的にはドイツ軍とともにスターリン体制下で活動した者たちも滅んでいく様を、しかし広大で滅びないロシアの大地をバックに描いているのでしょう。
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