ありんこ

バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所のありんこのレビュー・感想・評価

3.5
残酷シーンが一切ないのでホラー映画と言えるのか疑問だが、なぜか精神的にジワジワくる作品。70年代イタリアンホラーが好きな人は別の意味でグッとくるかも(舞台裏が描かれているので)。
主人公のギルデロイは音響技師。イギリスからイタリアのバーバリアン・スタジオへ仕事でやってきた。ここで製作している映画『呪われた乗馬学校』のオープニングが流れるのだが、これがまた70年代ホラーの雰囲気プンプンで期待が盛り上がる。
ところが残念なことにこのあと映画の画面がほとんど出てこないのだ。残酷な場面なのは登場人物たちのセリフでわかるが、スイカをザクザク切る音やフライパンにバターを焦がす音、女優さんの悲鳴などで想像するしかない(笑)。
ギルデロイ、どうやら仕事の内容が”ホラー”だと知らなかったよう。一方、監督もホラー映画と言われてキレているので、そういった行き違いや、そもそも英語があまり通じない慣れない環境で、ギルデロイは残酷な場面を見ながら懸命に音を作っていく。
いい言い方をすれば真面目なんだろうけど、ギルデロイも気にしいというか不器用な男である。母親とベッタリな感じも手紙から透けて見える。
旅費を払ってもらえない(たらい回し)、装置のガタがきている(古株のエンジニアにいじるなと言われる)、押しの強いプロデューサー(自分も不満タラタラ)、ろくに顔を出さない監督(女好き)。これらのイライラ要素に映画じたいの不気味な音楽(魔女の歌など)も重なり、ギルデロイの精神もだんだん不安定になっていくという流れ。

クライマックスらしいものがなく、こちらに想像を委ねるような終わりかたであるため、大半の人がモヤモヤすると思う(笑)。とりあえず音が不気味なので、暗い部屋でヘッドホンしながら見ると楽しめるかもしれない。個人的にはわりと楽しめた。
ありんこ

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