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サタンタンゴのtorumanのレビュー・感想・評価

サタンタンゴ(1994年製作の映画)
4.4
映画の鑑賞体験を超えた438分

ギックリ腰・夏のイベントのキャンセルで、今年はまるっと時間が空いたお盆休み。
このタイミングがない限り観ることのなかった作品でした。

ハンガリーを代表する巨匠タル・ベーラの大作。
上映時間はおよそ7時間20分。
今回は、午前9時から観初めて、休憩が2回入るのでその間に食事を取り、午後6時くらいに観終わるスケジュールで挑みました。
正に『サタンタンゴ』に捧げる1日です。

貧乏な寒村で生活している村人たちが、死んだと思われていたイリミアーシュと呼ばれる男が村に戻ってくるという噂に翻弄される1日の様子の前半と、イリミアーシュの口車に乗って生活が補償された農園に向かう村人の様子を描く後半の全12章からなるエピソードで描いています。

カット数は150カットです。
(普通は100分の作品で1000カット。アクション映画で3000カット。)
異常にゆったりとした流れで映画は進んでいきます。
冒頭の牛の放牧シーンだけで7分間。
牛がのっそりと移動します。
ワンシーンワンカットで、牛の動きも計算された撮影で素晴らしいシーンになっています。
我々が生活しているテンポのカットで撮影されている為、登場人物と共にひなびた村の生活を過ごしているかのような、特別な体験を味わえます。
その中に、時折現実離れしたような美しい場面が差し込まれる為、本当の奇跡に出会ったような感動があります。
これは新しい体験でした!
また、暴風の中でイリミアーシュと仲間たちがひたすら歩いているシーンが2回あります。
特に必要なシーンとは思われませんが、兎に角カッコいいシーンに仕上がっており、これはずっと観ていられます。

本編を観て5時間くらいすると感覚が麻痺してきて、映画を観て感動しているのではなく、村人とともに1日をすごし(飲み会でだらだら踊り続け、お葬式に参列し、イリミアーシュに騙されているのではという疑心暗鬼になる)中で気持ちも同調されていきます。
既に作品を楽しむというのではなく疑似体験の域です。
旧約聖書からの隠喩も多く、当初は色々考察しながら作品を鑑賞していましたが、途中からはそれも放棄し、この鬱屈した生活から解放してくれと登場人物と同じ気持ちになって観ました。

438分鑑賞し終えた時は達成感で感無量になりました。
(マラソン完走の気持ちです)
映画鑑賞を超えた特別な体験を得ることが出来ました。
映画としても、もちろん素晴らしかったです。

ギックリ腰の間は、今までやっていなかったテレビ鑑賞の作品を中心にレビューしてきました。
今後は、またレビューペースは落ちますが、テレビ鑑賞の作品も時間がある限りレビューしていきたいと思います。
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