マリオン

あなたを抱きしめる日までのマリオンのレビュー・感想・評価

あなたを抱きしめる日まで(2013年製作の映画)
4.0
ジャーナリストと共に息子の消息を探す旅に出る女性の実話の映画化。生き別れた息子の消息を探していく内に判明する真実にアッと驚き、ちょっと恐ろしさも感じた。そして宗教が重要なテーマとなり、宗教が根底にある者とない者のギャップにクスリとさせられ、また宗教の持つ様々な一面について考えさせられる。重いテーマながらとても優しい作品だったと思う。

カトリックを信仰するフィロミーナは10代の頃に生んだ息子と共に修道院に入れられるが修道院から勝手に息子を里子に出されてしまい、50年間息子のことを胸に秘めたまま生活していた。一方ジャーナリストのマーティンは政治スキャンダルに巻き込まれ一から再スタートするためにフィロミーナの息子探しに協力することとなる。マーティンは無神論者なのでカトリックを信仰するフィロミーナとちょっとしたズレを感じる会話がまた面白い。というかフィロミーナはなんでもかんでもあっけからんとした顔で自分の想いや考えをさらけ出すのでそれだけでも面白い。小説の内容をオチまで全部話してしまったり、下ネタも躊躇なく話したりといちいち面白い。すごいおばあさんだ(笑)

そして消息の分からない息子を探していく内に判明する息子の人生にこれ実話なのか!と驚く。事実は小説よりも奇なりとよく言ったものだ。そこで明らかになる真相は宗教の悪い面というか不条理な一面が垣間見える。それは宗教の考えのもと正しいことだと信じて疑わないという曖昧さ、危険性なのかなと思う。だがすごいのはそんな悪い面を含めて許容するのもまた宗教であることをフィロミーナは体現するのだ。マーティンもそんな彼女の一面に惹かれていくのだ。

そんな魅力的なおばあさんを演じるジュディ・デンチの演技は相変わらず素晴らしい。彼女の包み込むオーラみたいな優しさがにじみ出ていてよかった。何より母親であるという巨大な存在感にぴったりだと思う。マーティンを演じるスティーブ・クーガンもよかった。落ち着きのあるしっかりとした論理の元動く彼の生真面目さがよく出ていた。個人的にハジけたおじさんやどこか胡散臭いおじさんを演じているイメージしかなかったので新鮮だった。そしてアレクサンドル・デスプラのスコアがまたこの作品の気品を上げてくれる。彼のスコアは相変わらず上品で美しい。

宗教という日本人には敬遠しがちなテーマではあるが普遍的なメッセージだと思うので見やすいと思うのでいろんな人に見てほしいなと思えるいい映画だと思う。いやぁいい話だった。
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