すえ

ノスタルジアのすえのレビュー・感想・評価

ノスタルジア(1983年製作の映画)
5.0
記録

以前鑑賞したのだが、都合が合わず途中で観るのを断念してしまっていた。今回は間を空けたリベンジ。

この、ノスタルジアという感情は何に向けたものなのか、作品を観ながらずっと考えていた。自分なりの解釈だが、それが向かう先は演説の一節にあったように、人間の原点なのではないかと思う。その原点こそがまさに我々の故郷であり、還るべき場所。そしてそこに還るためには、死に触れるしかない。そしてその死こそが『ノスタルジア』である。

これほど恐ろしいと感じた作品は他にはない。畏怖という言葉が形を持ったよう。この作品が死そのものであり、タルコフスキーは彼方を視たのではないかと疑ってしまう。向こう側を知らなければこれは作れないはずである。

作品に引き込まれるという経験は何度もあるが、反対に作品が身体の中に入り込んでくるという体験は初めてだった。『ノスタルジア』を観ている間、常に自分が変化し、1秒前の自分は今の自分と違い、また1秒後の自分は今の自分と異なる。時が進む毎に変化していき、作品を観終わった自分はまるで別人のよう。『ノスタルジア』前と『ノスタルジア』後では決定的に“何か”が違っている。

彼の映す全てが美しく、異質。この世のものではないよう、そんな言葉が“よく”似合う。文字では表現し得ない、脱帽。

これは悪夢への片道切符であり、これからずっとこの悪夢を見続けるに違いない。寝ても醒めても悪夢を見ている。もう以前の自分には戻れない。
ベートーヴェンの第九を流し、ガソリンを浴びて火達磨になるしか解放の道はない。

水、火、そして死。

2023,255本目 9/25 VHS
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