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グランド・ブダペスト・ホテルのmaiのレビュー・感想・評価

4.3
めちゃくちゃ好きな雰囲気の映画でした!

お話としてはそんなに難しくないのですが、おとぎ話ちっくな映像にそぐわない、殺しの現場や逃走劇がかえって滑稽で…そのアンバランスさがとてもシュールで面白かったです。
そして最後の最後までそのアンバランスさを楽しんだ後に、この映画の主題であろうことがポンっと放り投げられるのです。
かつては「文明の光」もまだ生き残っていて、それがゼロの通行を許可するかどうか…で暗示されていたのですが、時代を経るとその「文明の光」は消えてしまい、グスタブは銃殺されてしまうのです。まさに、「時代に殺されてしまう」と言ったところでしょうか。ここがひどく印象的で、最後はここに帰結するのか…と感じました。
思い返すと、グランド・ブダペスト・ホテルはあんなにも華やか(鮮やかな彩りですが、全然下品じゃなくて上品なんですよね…あんなに上品なパステルカラーは見たことないです)なのに、そこから一歩出ると暗い色合いで、さらに3人が最後に乗る列車はモノクロで描かれているのです。そして、最後に「彼の世界」との最後の絆か?と聞かれたゼロは「彼の時代は彼が生きていた頃には既に無くなっていて、ホテルはそれを見せる幻のようなものだった」という内容を語るのです。
人間性への誇りは時代とともに消えてしまい、グスタブの時代にもそれはとうに消えていたが、彼の築くグランド・ブダペスト・ホテルの中ではそれが受け継がれていた…だから最初の列車のシーンでは、昔よく泊まりに来てくれた家族の息子がゼロの通行を許可してくれたのです。

とにかく逃走劇が滑稽で、画面内も音や動きが音楽に妙にハマっていて、観ていて面白かったです。ワハハと声を出して笑うコメディばかり観てきたけれど、心の中で「それで?それでどうするの?!」とのめり込んで観てしまうシュールなコメディは初めてでした。コメディ映画の中では、飛び抜けて異質で、飛び抜けて好きなタイプです。
でも、それだけでは終わらず、最後にメッセージを残してくれているのです。
さらに、それを一冊の物語として女性が読むシーンで終わる…それがおとぎ話ちっくな映画に最高の余韻を残してくれてました。

好き嫌いは分かれると思うのですが、とにかく終始のめりこめる面白い映画でした。
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