イチロヲ

白痴のイチロヲのレビュー・感想・評価

白痴(1951年製作の映画)
3.5
政治権力の傀儡にされている厭人家の女性(原節子)が、戦争体験により白痴化した青年(森雅之)とヤクザ者(三船敏郎)の狭間で、心を揺り動かす。ドストエフスキーの小説を映像化している、ヒューマン・ドラマ。

本作では、真冬の札幌に魅せられた黒澤監督が、現地にて本格ロケを決行。石狩軟石と木造建築が混在した和洋折衷の町並み、札幌テレビ塔建設後に取り壊された消防用望楼、中島公園の氷上カーニバルなど、今となっては資料映像の側面が強く感じられる。

本編内容は、白痴と聖人の表裏性を含ませている分裂症の青年が、現代社会の有象無象に取り込まれていくパターン。自滅型の原節子が、自身とは正反対の境遇をもつ令嬢(久我美子)と白痴の青年に未来を託すのだが、心の乱反射現象に見舞われてしまう。

4時間の長尺を166分に短縮しているため、パッチワーク感覚に苛まれてしまうが、人生苦に抗えない人間たちが、白痴の足を引っ張っていくグロテスク模様を楽しむことができる。適度におバカであることが一番幸せ、ということを教えてくれる作品。
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