最近読んだ自閉症とは全く関係ない、ある書物の中で工学者・動物行動学者のテンプル・グランディン(1947年生まれ、現在コロラド州立大学教授)のことを知った。その本の中でこの映画の紹介があったので鑑賞。
彼女が自閉症と診断されたのは1951年 当時ほぼ4歳の頃。当時の医師は自閉症を小児統合失調症と呼んでいる。母親の接し方に原因があり専門の施設入所を勧めてもいた。今から見ればアスペルガー症に対する、とんでもない無理解。
テンプル・グランディン(クレア・デインズ)の社会的な成功に寄与したもの。それは献身的な母親(ジュリア・オーモンド)の理解と信頼、少女時代に一時預けられていた叔母のアン(キャサリン・オハラ)の理解と寛容的な接し方、またその牧場での家畜たちとの触れ合い体験、博士号を持ちNASA在職経験のある科学のカーロック(デヴィッド・ストラザーン)先生に寄宿学校で出会えたことであった。
パニックになったときに彼女が自分の気持ちを落ち着かせるために考案したスクイーズ・マシンの由来には大変驚いた。笑う気持ちにさせない核心的エピソード。
「私は視覚で世界を理解する」の言葉通り、肥育場や食肉加工場での牛の行動に関する彼女の洞察は視覚的直感(インスピレーション)によって彼女の頭の中に自ずと現れたものだろう。だから客観的に証明する実験科学的な方法は全く分からなかったはずだ。恐らくカーロック先生の指導の賜物であろう。この辺りのエピソードがあるともっと良かった。自分の将来の可能性を広げていくためには困難なことにも自ら立ち向かう大切さも彼は教えていた。
躍動感を漲らせるラスト・シーケンスは彼女の更なる活動の広がりを端的に表していてとても上手いと感じた。彼女は実際に自閉症特有の認知スタイル(視覚思考、パターン思考、言葉の論理思考)と教育方法についても書物を著しているので。また新しい世界への扉を開いていく感触が清々しい。
彼女を襲う外界刺激がフラッシュで写されたり、彼女の視覚的直感を幾何学的な補助線で示したり…と本人視点からの映像演出がユニーク。クレア・デインズの演技は熱が入っていて見事だった。