fern

鑑定士と顔のない依頼人のfernのネタバレレビュー・内容・結末

鑑定士と顔のない依頼人(2013年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

60を過ぎた男、鑑定士でありオークショニアでコレクターでもある
ヴァージル.オールドマン(ジェフリー.ラッシュが素晴らしい)は
偏屈で人嫌い、食事時ですら手袋をはずすことが出来ない病的な潔癖症である。

生身の女性を愛せない代わりに
犯罪すれすれで手に入れた女性の肖像画の数々を秘密の部屋の壁一面に飾り
眺めて欲望満たす。

この部屋の様子が圧巻
異様だが美しい。
どうやって撮影したのかが気になった。

また、オークションで名画を格安で手に入れる手伝いをしているパートナー、ビリーを演じているのがドナルドサザーランドというのも興味深かった。

彼の誕生日に、突然かかってきた電話で富と名声を手中にしている彼の人生が大きく変わっていく。

その電話はクレアと名乗る若い女からで
一年前に亡くなった両親が遺した家具や名画を鑑定し競売にかけて欲しいと
言うものだった。

両親の残した屋敷で会う約束を交わすものの、理由をつけては姿を見せようとしないクレアに怒り
何度も取引をやめようとするヴァージルだが、

好奇心から次第に見たこともないクレアに惹かれていくのだった。

屋敷の中の隠し部屋で誰にも会わずに暮らしているクレアは何らかの理由で広場恐怖症となり
人に姿を見せることが出来ないという秘密が次第に明らかになっていく。
守ってあげたい思いに刈られ
足しげく屋敷に通うヴァージル。

屋敷で偶然に見つけたオートマタの機械人形の部品への好奇心もまた
ヴァージルを屋敷へと向かわせてしまう要因の一つであった。

ヴァージルは、何でも修理してしまう若い友人ロバートに機械人形の修復を頼むと共に恋の相談を持ちかける。

どうしてもクレアを見てみたいたいヴァージルは、屋敷を出ていった振りをしてとうとうクレアを見てしまう。
その美しさに息をのむヴァージルであった。

60才を過ぎたヴァージルが27才の若いクレアに翻弄されながらもだんだんに惹かれていき
最後には深く愛してしまう様が
丁寧に描かれていて
観ている私たちもヴァージル同様クレアに惹かれていくことを追体験してしまう。

ロバートのアドバイスも効を奏して
ついにクレアを手に入れるヴァージル。

一見ヴァージルの恋が上手くいっているかに見えるが
何か不穏な空気が感じられて私たち観客は、落ち着かない。

クレアとの新しい生活に、残された人生の全てを掛けるためにオークショニアとしての仕事を辞める決意をしたヴァージルは
最後の仕事であるオークションを終え家に帰ってくる。

姿が見えないクレアを探し回るヴァージル。

そして、最後に秘密の部屋で彼が見たものは?
総ての絵画が外された白い壁。

ヴァージルと共に私は奈落の底に堕ちていった。

言葉に出来ないくらいの胸の痛みと虚無感。
60数年掛けて手に入れて来たもの全てを失う。

私にとっては受け入れがたい結末だった。

彼を取り巻く全ての人が彼を陥れるために動く。

しかし、そういう現実としての事実のみを捉えてこの映画を観るべきではないようにも思う。

何かしらもっと違う事を伝えているようにも思える。

人生の落日に全てを失うと言うことに何か隠されているものがある気がする。

以前観て非常に感動したルイマル監督の『ダメージ』も確か終りはこんな風に虚無と清々しさに満ちた映画だった。

欲と手垢にまみれて生きてきた人生を精算する、それも自分ではない何ものかによって成し遂げられる、、、

深く隠れていたクレアに惹かれたヴァージルのようにこの映画に隠された謎に惹かれてもう一度観て見たいそんな気持ちにさせる映画でした。
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