きり

インセプションのきりのレビュー・感想・評価

インセプション(2010年製作の映画)
4.2
全編に漂う緊張感と疾走感が好みな作品でした。幻実的、とでも言えば良いのか。
なにせ緩急が凄まじい。全体にしろ、一連のアクションシーンの中にしろ。ノーランの作品はいつも、音響が、すごくいいなと。

どこを切り取っても美しいけれど個人的に好きなのは、序盤の実習シーン。本が、皿が、花が、街がリズミカルに弾け飛ぶ。整然たる破壊的光景とはこんなにも目を惹くものなのかとうっとりしました。
それから、凶器を持って近づいてくるモルに「Wake me up!!」と絶叫するアリアドネ。夢だから、目が醒めたなら逃げられるという救いを全力で叫ぶ場面の、一瞬に込められたありったけの悲痛さでこの作品に惹き込まれました。
夢の中では死んでも目が醒める、しかし感覚は生身。夢の設計自体がそうだったけれど、現実以上に感情が生々しく表現される世界と演技が印象的でした。死ぬほど痛いが、死なないとして、それでも当人にとっては何より現実的。悪い夢を見たでは済まない意識。事実の混乱と瞬く間に押し寄せる感情の表現に、映像の世界に、心底ゾッとしました。映画ならでは、という作品です。

後半も後半で、重さを増していく空気は画面越しでもゆっくりと締められている心地がするほどでした。俳優たちの、特にコブとモルの眼の演技が感情的なものになってくると、これまでの展開にも得心がいって。そりゃ誰だって夢は見ていたいよな、と。
日本語字幕ありで観ていましたが、「Choose me」のずるい響きにはやられました。
きり

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