Jeffrey

パラダイス 愛のJeffreyのレビュー・感想・評価

パラダイス 愛(2012年製作の映画)
4.5
「パラダイス:愛」

〜最初に一言、ここの映画に出てくるタブーは全てハクナ・マタタ(問題ない)である。一人の女の金をエンプティーする複数の黒人たちとの風変わりなバカンス映画を捉えた風変わりかつ面白さに満ち、ルシアン・フロイドの絵画を想起させる身体性もしくは肉体性の美化を一切しないヌードが赤裸々に映される映画である〜

冒頭、ここは美しきケニア。ウィーンで自閉症患者のヘルパーをしている50代のシングルマザー、肥満体の娘、信仰深い姉(叔母)、ビーチボーイ、黒人男とのセックス、騙し、ホテル、荒地、海、卑猥談話。今、彼女はとある地域に1人旅行しに来た…本作は「ドッグ・デイズ」で第58回ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞を受賞したウルリヒ・ザイドル監督が、ドキュメンタリー的な手法を用いて、理想を求めて一線を超える女性たちを描いた三部作の1つであり、この度BDを購入して人生2度目の鑑賞したがやはりこの独特な感じがたまらない。セックス観光と言う論理的タブーに足を踏み入れながらも欲望のまま突き進む女が、やがてエゴイスティックな残酷さをはらんでゆく若い黒人男の偽りの愛の巨大な性器と激しい性行為を官能する物語ってヤバイだろって当時説明を読んだ時は思ったものだ。本作の主演のテレサを演じたマルガレーテは、この作品が映画初出演らしいが、とんでもなくインパクトを残していた。正直びっくりする。そもそも三部作はそれぞれ独立しているが、基本的には主役の家族が基軸になっているため、連続してみるのがいいのかもしれないが、それぞれに異なった性質を持つため、バラバラに見ても良いが、極力は全てをまとめてみた方が良いのかもしれない。

そうした方が心に深く豊かな感情が芽生えるし、まるで別の宇宙を見ているかのような感情的で、関係を持って見られる。この監督にはメソッドがあって、自分のルールがある。まずフィクションをドキュメンタリーの環境で撮ることを大事にして、予期せぬリアリティが架空の物語に融合するように導き、従来通りの脚本を作らず、キャストはプロの役者とアマチュアの両方を使い、観客には誰がプロで誰が素人か判定できないようにしているのと、役者に現場に脚本を持ち込ませない徹底ぶりかつ、シーンとセリフは俳優たちの即興で作られ、時系列に沿って撮影し、シーンや劇的な筋書きを絶えず採り入れ発展させたひ、音楽の使用はその場面に不可欠な要素である場合のみ使ったりしているのだ。


さて、物語はウィーンで自閉症患者のヘルパーをしている50代のシングルマザーテレサは、一人娘のメラニーを姉アンナ・マリアの家に預け、バカンスを過ごしにケニアの美しいビーチリゾートへやってきた。青い海と白いビーチに面したホテルはまるで楽園のようだ。この土地で、テレサは親友インゲが現地の若い黒人男性に夢中になっていることを知る。ケニアではインゲのような白人女性をシュガーママ、シュガーママに愛を売り、ヒモとして生活する男をビーチボーイと呼んでいた。インゲからビーチボーイとのセックス話を聞くうちに興味をそそられたテレサは、ついにリゾートの敷地を超え、ビーチボーイが待ち構える波打ち際へと踏み出してしまう。テレサのたっぷりと太った身体を美しみ、彼女を女として大切に扱ってくれる優しい男達。忘れかけていた女の悦びに目覚めたテレサはビーチボーイたちとの愛にのめり込んで行く。しかしやがて、男たちは何かと理由をつけては言葉巧みにテレサに金を要求するようになるのだった…と簡単に説明するとこんな感じで、様々な問題をこのバカンスの中に組み込ませ、いかに女性が経験したことのない地域で翻弄していくかをうまく描いている。

この映画見ればわかるのだが、非常に違和感がある絡み合いが多くなされている。例えば冒頭の知的障害者がゴーカートを遊園地で楽しむ場面なんて、何のために作られたのだろうか、後につながる物語なのかと思いきや、序盤に出ただけで中盤終盤には全然出てこない。また、あれほどまでに単純に騙される女性もいるだろうか、見え見えの嘘がわからないわけでもなく、きちんと頭で考える主人公の女性であるにもかかわらず、この見知らぬ土地でのパワーにひれ伏してしまうのだ。映画はひたすら女性同士の卑猥な雑談を撮られたり、意味もない黒人のアクロバットな体の動きを捉えたり、音楽隊が歌ったりするお店、美しい砂浜を捉えたり、日光浴をしているふくよかな女性たちばかりをとらえる。そこには連帯感を際立たせるような演出がなされており、ますます違和感が感じるのである。映像的にはシャープであるものの、違和感や人間的な共感が所々に印象残す。あのふくよかな女性同士が集まり、黒人をベッドに誘い踊らさせたり、誕生日を祝ったりと、何が何だか分からないのである。見ているこっちが混乱してくるのだ。

そもそも中年女性が1人でアフリカにバカンスしに行くと言うのもなかなか勇気があると思う。これは決してアフリカが危険な場所と一方的に言っているわけではなく、彼女が愛を得るために選んだ滞在先がアフリカというのが気になるのだ。それは全く説明をされておらず、白色人種による奴隷がなされた地に生きる民族が多くいる場所で、逆に黒色人種にその白色人種の女性が食い物にされていく模様を見せつけられるのだ。まるで、他民族が他民族の地域へやってくれば、植民地主義的な差別を受けると言いたいかのごとくである。しかしここで面白いことに、騙されたことに気づき、海岸でその黒人青年にビンタを食らわして猛烈な勢いで怒りだす彼女が、また3人めの黒人男性について行ったり、あれほど1人、2人と騙されてきているのに全く改心せずに突き進んでしまう愚かさが描かれているのだ。まさにタイトルに付く"愛"を求めて突進する物語である。

ここでさらに面白いことに気づく、先ほどなぜアフリカに彼女が1人でバカンスしに来たのか、なぜこのケニアと言う土地を選んだのか。他にもバカンスする安全な地域等を山のようにあるのだが、彼女はケニアじゃなければならなかった。その理由と言うのは果たして何だろうかと考えたときに、自国では望まない性的満足に浸るために来たと思うのが普通であろう。要するに、無い物ねだりである。日本人女性が白人の男性と結婚してハーフの赤ちゃん産みたいと言うだけに白人をパートナーにと考えるのと一緒だ。だからその地域で出会った他の白人中年女性と意気投合して、彼ら(黒人男性)の生態の説明などを聞いたりして、興味津々に語り合うのだ。そもそもこの作品は、中年白人女性が主に出演していて、年老いて性的魅力を失った小太りな婆さんたちがいわゆる見るも無残な脂肪の塊で水着姿を披露する。どこかしら見世物にしているかのような、さらにアフリカに対する経済的優位に立っていた白人が馬鹿にされているかのような描き方、終始居心地が可笑しくなってしまうバカンス映画なのだが、結局はセックス観光で終わる始末だ。だからこそ、そこにリアリティーがあり現実味があった図式構成になっている。

しかしながら、一方的に白人中年女性を馬鹿にしたような作風ではなく、修正するならば、ふくよかな人間と言うのは、ある種安心感や安定感がうかがえるものだ。特に男性ではふくよかな女性の方が好きと言う人もけっこうな人数いる。そうすると、血の通った安心感のある体つき(脂肪たっぷり、母性的な)の女性を魅力的に描いているのも事実である。実際劇中で、主人公の女性テレサはかなり優しさに満ちており、笑いの絶えないいい中年女性であるし、屈辱的、侮蔑的に描かれていない。常夏の地域でバカンスをする女性の温かみが前面に押し出されているのは確かである。そこに笑いと、多少の恐怖(サスペンス)が入り混じり、物語全体を楽しくしている。パラダイスと言うのは、まさにこういったものが入り混じった全てのことを言うのだろう。

しかしながら監督は最後に主人公の女性テレサを含め他の女性たちで、テレサが今まで他の黒人にやられた騙しや欲求行動の押し付けに対して、最後に1人の黒人をベットの上で嬲る(この場合の嬲るは女性たちに男性がやられる)シーンをきっちりと用意している。欲望を欲望で突き返す、いわゆる目には目を、歯には歯をの原理で破廉恥さを含めてどんでん返しのクライマックスがあるのだ。しかしながらその復讐とも言える黒人青年に最後に恥ずかしめてから、ケニアの美しいビーチをシルエットに彼女が歩く姿をロングショットで捉える余韻の残るサプライズが観客に待受けられているのだ。さらに無理に付け加えると、この映画は果たしてどういった解決が結局なされたのかを放り出されている。それは観客一人一人が考えることであり、完結させるものである。


いゃ〜、やはり冒頭のゴーカートのアトラクションの始まり方は印象的だ。しかもそれを乗ってる人たちが自閉症の子供から大人までで、それぞれゴーカートに設置されたカメラでクローズアップされその表情が我々観客に見世物小屋のように見せられていくのだ。この冒頭の出だしで憂鬱になる観客もいれば、憤慨する観客もいるだろう。まさに問題作と言える序盤である。この監督って固定ショット好きだよなぁ、基本的にカメラが動くんじゃなくて被写体を動かすよね。すごいそれがこの監督の代名詞の1つになっている。それからこれは不謹慎かもしれないけど、率直に思ったことだから言うが、基本的に美人や痩型女性が出てこない。主に出てくるのはふくよかな女性や身なりを気にしてない方ばかりだ。監督ビーセンなのか(笑)。これ何かのテレビ番組で見たのだが、黒人(アフリカ大陸の人に限るのだろうか?)は、かなりシャイで、人前で裸になったりしないと言っていた記憶がある。この映画のように真っ裸になってセックスを自発的にするような感じは無いのだが、果たして映画ではどうだったのだろうか…。


黒人3人がプールを掃除しているなんてことない描写も面白いのと、あの美しいホテルに到着して、現地の猿がバルコニーにやってきてバナナを与えて近くで見れるんだけど、あゆ感じのいちどやってみたいなと思った(どうでも良い話)。それにしてもバーで固定ショットで真っ正面から女性2人が卑猥な話をしてるのと、そこからビーチに移動してそこでも男性の陰毛の話だったり色々と卑猥な話をし続けるシーンは面白い。それから違うビーチで女性がくつろぎたいのに、現地のアフリカ人の男性たちがアクセサリー等しつこく売りつけようとする場面も長々と捉えていて笑ってきちゃう。しかも結局推し負けで、ブレスレットを買うんだけど、それが200ドルとかどう考えてもぼったくりだし、ハンドメイドだけどいくらなんでもお土産にしては高すぎる。

それと黒人の新人のウェイトレスにドイツ語でベーコンの皮って言ってみてと言って、ふくよかな女性2人が大笑いする場面もずっと後ろ姿を固定で見せ付けられてその高笑いの場面とメイ・イン・ブラックみたいって言ってサングラスをつけさせたり、おもちゃにされている黒人が可愛らしかった。そんで主人公の女性が昨日ブレスレットを売り付けられたガブリエルって言う若い黒人とホテルで一発やろうとするんだけど、浮気している自分が許せないとのことで、途中で心変わりするんだけど、そのガブリエルがあまりにしつこく、ずっとやらせてって言う場面を個性ショットで長回しも爆笑する。確かに俺も海外旅行とか行った際にアフリカ系の人にものすごく…これ以上は言えない(笑)。その後に現地の人たちが楽器を使って音楽を奏でるシーンを固定ショットでとらえるんだけど、これがまたいいんだよね音楽と共になんか面白くて。ゼブラ柄の衣装とカーテンをバックにして。

それと新たに黒人の恋人ができて、彼の妹の子供が病気になって、入院費や色々とお金がかかるから彼女にお金をちょうだいって言う場面で、もっともっとと図々しく金を貰おうとする場面とかありえないと思う。この映画一応バカンス映画になってるけど、こんな地にバカンスしたいと思わない。確かに風光明媚で美しい土地柄だとは思うが、それとは反面的に、ゴミが大量に散らかっている裏路地などもあり、かなり悪劣な環境下であることもわかる。にしてもBen MbathaのNgalikusya Kivuthyaがひっそりとバーのテレビの中から流れるのは良かった。確か本作はケニアに行って、監督が2年間調査して回ったと言っていたが、するとビーチボーイは現地の素人が演じたんだろうか。だとすると、やはり白人=金持ち、ヨーロッパ人は金を出してくれるからと言う固定概念があるのだろう。実際日本人も外国ではそう思われているし、そもそも初めてアフリカにやってきて、初めて黒人と接触する白人女性を描こうと思った監督のプロット作りもびっくりする。きっと監督が現地を調査しているときに、ビーチとかにいた彼らにしつこく買い物しないかと押し売りされたんだろう。


この作品を含めてパラダイス三部作は各作品に独自の美学や語り口があるのが特徴的で、本作に限っては表面的に異国の自由な感じを醸し出していることに成功していて、植民地時代があるアフリカをあえて選んだのは監督の何かしらの意図があったんだろうなとは思う。それにしても主演のマルグレーテ・ティーゼルはすごい女優である。圧倒的な芝居力に、圧倒的な存在感、ずっしりとした体型で我々の脳内に焼き付けさせるようなインパクトを放つ。ここまで監督が求める基準を全てクリアした女優もなかなかいないだろう。例えば、黒人とのセックスシーンがあったりヌードだったりと…中々簡単なことではないだろう。私は女性ではないので、そういった点において女性の気持ちがわからないのだが、女性と言うのはやはりあそこまで若い黒人(どんな人種でも若ければ)自分が何歳か若返ったような気になって火遊びしてしまうものなのだろうか?未開発の地を旅して恋人を見つけると言うロマンスはやはり女性は理解できるのだろうか。


そもそもパラダイスと言うのは聖書の感覚では永遠の幸せを約束するものとされているようだが、基本的に人類が感じ取っているパラダイス(楽園)は、欲望が全て満たされるユートピアであり、本来の意味からは少しばかりかけ離れているような感じがする。最後に余談だが、本作に出てくるムンガと言う黒人男性は実際にドイツ人のシュガーママと結婚していたそうだ。本来のパラダイスはもともと1本の映画として考えられていたそうで、5時間半の長大な作品だったが、それだと作品自体の機能が弱まってしまうため、結局1本ではなく3本の独立した映画にすることが芸術的にベストな方法だと結論づけたそうだ(監督のインタビューによる)。長々と書いたが、この作品は非常に独特な時間枠の中に吸い込まれるような魔法のような作品なので、ぜひともお勧めする。好きになるか嫌いになるかは個人差があるが、私は大変好きである。真夏に観たくなる映画だ。これは普通にレンタルされているので、簡単に見れると思う。こちらも近々YouTubeで詳しく解説動画を上げる。
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