尿道流れ者

激戦 ハート・オブ・ファイトの尿道流れ者のレビュー・感想・評価

4.6
男達が闘うならば、やはり手段は拳や肉体であってほしい。そこには努力と勇気と燃える闘魂がある。それってやっぱり男には捨てられない素晴らしいものじゃないですか。

落ちぶれた2人の男。八百長でボクシング界を追放された元チャンピオン。経営に失敗して飲んだくれと成り果てた父を支える元御曹司。2人は出会い、元チャンプは間借りしている部屋のオーナーである母子のため、元御曹司は父のため、共に闘いに出る。
その闘いの舞台が総合格闘技なわけだが、これがまぁエゲツないくらい恐ろしく、どんなゴア描写よりも目を背けたくなるほどの怖さがある。死者も出るという総合格闘技の舞台、それでも闘う男達。彼らを支えるのは一つの闘う理由。それがあるから、彼らは逃げないし何度でも立ち上がる。

香港映画だが舞台はマカオ、主人公たちはマカオで庶民としてまたはそれ以下の生活をしている。しかし、夜になると暗闇の中絢爛と輝く華やかなマカオが現れ、闘いが始まる。地味な暮らしと華やかさのギャップが甚だしく、そしてその華やかさが夜にあるという不健全さ、主人公たちの苦悩はまぬがれることがないものとして眩しさがとても辛く映る。
元チャンプはそんな中で少しづつ母子との関係を積み重ねていく。この3人の関係性が時にコミカルで切ない。また、元チャンプと元御曹司の2人の関係も同じで2人の親密性は悲劇性を高めるものとなる。

話自体はとてもベタで、ロッキーもしくはミリオンダラーベイビーさながらの陽と隠に心を翻弄される。ベタなものをわざとらしくみせず、感傷的にさせすぎない要因として演出と演技がとても素晴らしく効いている。特に演技の面では、子役のクリスタル・リーのクリスタルがおもちゃに見えるほどの演技が素晴らしく、可愛いし上手い。主役2人の演技も素晴らしいが、なによりもその鍛え上げられた肉体はとてつもなく、ニック・チョンがリングに上がった時の身体つきのエグさは惚れ惚れするほど。2人の修行シーンも素朴でありながら、ゆえに負担の大きさを感じるもので、男が筋肉を鍛え上げるだけで、人はなぜこんなにも感動するんだろうと感情の迷宮に迷い込んでしまう始末。

笑いも涙も興奮も兼ね備えた素晴らしい映画。スタッフロールに流れる後日談の多幸感。都合が良いと言われようが全面的に好きだって言いたくなる嬉しさがあった。少し残念なのは、オープニングからのシーンの連続が引き込まれるパワーが無いのと、鍛え上げられた筋肉に映える刺青が見られなかったこと。それ以外には言うことなしな作品。