山本薩夫監督が、明治時代から昭和(第二次世界大戦直後)までの長期にわたる激動の時代を、農村を舞台にして描いた人間ドラマ。
これが、人間ドラマだけにとどまらず、米騒動や戦争に巻き込まれていく農民の姿を通じて、当時の世相まで描いているのだから、見事である。
郵便配達の男=茂市(三国連太郎)が「郵便配達を止めて、荷車ひきになるのだが、一緒にならないか?」と、セキ(望月優子)にプロポーズする。
セキは、両親に勘当されても、茂市と一緒になる。しかし、姑(岸輝子)には辛く当たられて白米は食べさせてもらえず粟などを食べながら、茂市と二人で荷車をひく日々であった。この荷車ひきも、1日に10里(40キロメートル!!)という過酷な労働。
こうした女を演じさせたら、望月優子はピカイチである。
望月優子主演のあの傑作『日本の悲劇』に負けじ劣らぬ熱演が見られる。
そのうちに夫婦ふたりの頑張りで裕福になってくると、茂市は妾をつくるだけでなく、一緒に住まわせるという横暴かつ(妻に対する)残酷な行動をとる。
この妾を演じるのが、浦辺粂子。
なぜ、この女を妾にするのか疑問であったが、三国連太郎もインタビューで「この映画、スケベな男を演じてもらいたいと山本先生から言われて引き受けました。しかし、妻が望月優子さんで、妾がその望月さんよりも年上の浦辺粂子さんというのは、どうやって妾に入れ込む気持ちをつくるのかが、結構たいへんでしたね。」と発言している。
芸達者な俳優たちが演じて、それを山本薩夫監督が上手く紡ぎあげた日本映画の傑作である。