かつを(@katsuwow)

それでも夜は明けるのかつを(@katsuwow)のネタバレレビュー・内容・結末

それでも夜は明ける(2013年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

丸の内TOEIにて

スティーヴ・マックィーン…その名前を聞いて「あれ、まだご存命だったっけ?」とか素で間抜けなことを口走っていましたが、俳優の方ではなくて監督のスティーヴ・マックィーンの作品、オスカー作品の「それでも夜は明ける」を観ました。

バイオリニストで自由黒人のソロモンは仕事で訪れたワシントンで興行主に騙され南部に奴隷として売り飛ばされていた。彼が絶望しか見えない中で家族に再び会うという一縷の希望を持っていたソロモンの約12年間の葛藤を描いた作品。実話を元にしているんですよね、奴隷制度の非道さを改めてスクリーンで確認してしまいました。

この作品を観る前に同じくマックィーン監督の「HUNGER」という作品を観ており、その作品の暴力描写が凄かったので覚悟はしていましたが、テーマがテーマだけに奴隷への容赦ない暴力と、雇用主の非道さに目を覆いたくなる場面が多かった。最初に売り飛ばされたフォードの農場で「マスター」と呼ばせていたティビッツや、最後に働いた農場のエップス。エップスはソロモンを頼っているパッツィーに対して彼女を鞭打つように命じるとか鬼畜の所業。血が吹き出すほど鞭を打たないと他の奴隷を撃ち殺すと言われたソロモンの表情は、鞭の度に泣きながら感情が凍っていくように見えました。

白人奴隷を信じ、裏切られた場面では、もう自分も裏切らないと生き残れないと悟り「人間としてあるべき姿」を捨てている。ただ、高潔な生き方を全否定されたこの生活に絶望して這い上がれなくてもおかしくないのに、彼はそれでも「生きてさえいれば」と死を選ばない。奴隷仲間には学があるところを見せたら殺される気をつけろと脅されていたのだけど、結局ソロモンは学があったから希望を捨てずに生き延びれたんじゃないかと思ってしまったんですよね。

農場主も、ソロモンが最初に売られたフォードは奴隷のイライザ親子を一緒に引き取るべきだと「気の毒がる」のですが、ソロモンを助けるものの、彼を守れない口実に借金のカタとしてエップスに売り飛ばしてしまって、結局は人間的にいい人でも”奴隷は奴隷”だったという現実を見せつけられました。悩めるカンバーバッチがカッコ良かったけど。

ソロモンを助けたのは、12年前に懇意にしていた店の店主パーカー、そして最後ちょっと出てきていいところを全部持っていったブラッド・ピット演じるカナダ人のバスがいい人だった。奴隷制度は、南部の人々が内部からは変えることができなかった制度だったなと実感した場面でした。

”マスター”ポール・ダノの腐れ外道ぶりが、ハマりすぎてて怖い(苦笑)そしてマイケル・ファスベンダーが「HUNGER」でも凄かったけど、今回もサディスティックでチキンなエップスを熱演してました。ルピタ・ニョンゴが慰み者になっていた時に完全に目が死んでいて、もう痛々しかった。鞭を打たれても石鹸を握りしめていたところに強烈な主張を感じました。最後はパッツィーも連れてって、ソロモンって心の中で叫んでました。

戦争映画や奴隷制度を描いた作品を観ると、人間は人間に対してどれくらい残酷になれるんだろうって思います。なぜ獣以下な事ができるようになるんでしょうね。「ハンナ・アーレント」ではありませんが、役割が与えられることで思考が無くなるのかな。人間の怖さと強さを観ることができた作品でした。