しんしん

それでも夜は明けるのしんしんのネタバレレビュー・内容・結末

それでも夜は明ける(2013年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ソロモンを追体験することによって、多くの人は彼に同情し(あるいは共感し)、奴隷制度とそれを利用する白人に対して負の感情がふつふつと湧きあ上がってくることだろう。
同時に、何か遠くの世の出来事に感じるのではないか。

否、ここに近しい現実が我々の身近のそこかしこにもきっと転がっている。
ソロモンの最後の「旦那様」と、カナダ出身の移動労働者が、正面切って正義について議論する場面がある。
「旦那様」は、きちんと法的手続きを踏んだ上で奴隷を買ったのだから、奴隷を人間ではなく所有物として扱うことには何の問題もない、と主張する。
一方で移動労働者は、法の手続きを踏むことによって得られる正当性と法それ自体の正当性を区別すべき旨を主張する。そして「旦那様」の奴隷の扱いは、奴隷制を肯定する法に従えはすれど、その法自体がそもそも悪法であるため、やはりその行為は罪深いと喝破したのだ。
現代の人間がこの議論を目にした時、多くの人は移動労働者に同意をするだろう。というのも、歴史の上で奴隷制度が悪とされているから。しかしながら、まさしく現代に存在する制度に従った行為について議論する時、「旦那様」と同じ誤謬に陥る人間はあまりにも多いと思う。すなわち、その制度を守っている限り、自分の行為には何ら問題もない、とする誤りである。
制度それ自体の正当性を疑わず、それに対する適応しか考えないような行為が、黒人奴隷の制度、ファシズム、ブラック企業、それぞれのもつ制度的欠陥を助長してきたに違いない。
自分の身の回りにおける、制度への過度な適応によって起こる倫理的バグの存在を思い知らされる映画。
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