マリオン

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅のマリオンのレビュー・感想・評価

4.5
インチキ広告がきっかけでネブラスカに向かうことになった父と息子のロードムービー。白黒で構成された映像はとても懐かしく、旅の過程で父や母の知らなかった過去を知ることで改めて父との絆を知るという優しい柔らかさが胸にジーンとくる。ただ優しい感動だけでなくクスリと笑わせてくれる。静かながら何度も見返したくなるような映画だった。

頑固でもうボケが入っている父ウディはインチキ広告の「100万ドル当たりました」を本気で信じ込んでネブラスカに向かう。もちろん嘘だと家族全員言うのだが全く聞く耳を持たない。しかたなく息子デイビットは車で連れて行くことになるのだが道中の二人の会話や親戚たちの会話が面白い。久しぶりに会った親戚とのよそよそしい会話の後の間とかリアルすぎるし、母親は誰からパンツの中狙われてたとか貞操の話ばかりだし、父親は入歯無くしたり秘密にしておくように言っていた賞金の話を速攻でばらしたりなどなど…はたまた借りパクされた空気圧縮機を盗もうとしたら…のシーンは劇場でみんな笑っていた(笑)

でも知らなかった父のことが明らかになって、なぜ賞金にこだわるのかを知った時にふっと優しい感動に包まれる。親戚や友人はお金の話ばかりで、あの時の金を返せとばかりせがむばかりで誰も父のことを見ていないというこの悲しさに息子はまた粋な計らいをする。あの時は敗北感に近い感覚だったのだろうけど今はちょっと誇らしい父の姿になるのはとてもかっこよかった。そして父の背中は息子に受け継がれていくのだろうなと思えるのだ。

アレクサンダー・ペインの演出もすごく計算されていて美しい。画面に様々な意味を思わせるものがそっと挟まれていたりして1回だけしか見ていない自分にはまだまだ気づかなかったことがいっぱいあったように思える。ネブラスカの美しい背景も美しい。時々その背景にウディが立ちションしてたりするのだが(笑)マーク・オートンの渋いスコアも味わい深くて素敵だ。

そしてブルース・ダーンのボケてるのか本気なのか分からないような頑固な父親演技がとても存在感がある。また昔誘惑されていた男の墓にパンツを見せるというトンデモな母親を演じたジューン・スキッブも勢いがあって最高だった。ああいう名物お母さんみたいな人がどこか懐かしさを感じさせるのだ。ウィル・フォーテ演じる息子もとてもよかった。

親子の絆を静かに繊細に描き出す地味ながらも心に残る傑作。見た後に自分も何か親孝行しなくては…という気持ちにさせられるだろうしきっと自分の人生と照らし合わせながら見たくなるかもしれない。
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