くるみ

醒めながら見る夢のくるみのネタバレレビュー・内容・結末

醒めながら見る夢(2014年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

2014/05/28
地雷案件と知りつつ見てきました。映画を作るときにやってはダメなことがいっぱい詰まっていて、とっても勉強になる。元版の音楽劇はまったく知らないです。

大きな謎が3つあって、真実が判明していく過程で、登場人物たちの確執の原因が明かされます。
が、メイントリックは予告の時点で何となく気付く。オチや真相が途中でわかっちゃうことがそのままダメ要素になるわけじゃないけれど、仕掛けの拙さや謎の唐突さが目立って、ハラハラドキドキとは遠かった。かといって、シーンごとの面白さもないし俳優さんたちの一挙一動にも魅了されない。

でも、一番辛かったのは、セリフの陳腐さと中身のなさでした。主人公は売れっ子劇作家で、原作・脚本・監督の辻仁成と重なるプロフィールなんですが、指導をするさい
「セリフに感情が入ってないんだ!」「セリフに魂を込めないと!」
とリアルさの欠片もないことを叫びます。
一昔前の少年野球じゃないんだから、指導ってもっと具体的でロジカルなものなはず。辻仁成は、普段の現場でもこうなの?と邪推しました。
リアリティ不要で、主人公の鬱屈を表現したかったというのなら、余計にセリフにはオリジナリティを出さないといけない。この二つ、中高生でも考えつきそうです。
そして、一番破壊力があったのは、松岡充が主人公の家で叫ぶセリフでした。主人公は劇団女優だった奥さんと結婚して一緒に暮らしているのですが、実は彼女は2年前に亡くなっている。つまり、画面上の奥さんは主人公が作り出した幽霊なんです。一応のメイントリックで「醒めながら見る夢」のタイトルの意味でもある。
同僚の松岡充は、家を訪問したときにその事実に気付き、主人公を叱責します。
「おまえたちに必要なのは、婚姻届じゃない!死亡届なんだ!」
うまいこと言ったつもりなのか。
主人公の狂気と悲しみを観客に見せたいはずなのに、あのセリフだけでギャグになった。止める人は誰もいなかったんでしょうか…。

本作は舞台版と違って、京都でお話が展開します。京都人の私が見に行く理由にもなったんですが、公式サイトの説明ほど地に足がついた描写ではなかった。
雰囲気を出すためだけに京都にするのはいいんです。でも、使い方が中途半端なんですよね。祇園祭を前面に出しときながら、うだる暑さは無視されている。着物姿でいちゃつくシーンがあるのに、乱れてるのは髪だけで襟元や帯はきっちりしている。
そして、場面つなぎで頻出する鴨川! 一応、主人公の心象風景になってるんですが、とにかく鴨川を映しといたら何とかなるという雑さでした。それでも何とかなっていたから鴨川はすごい。

登場人物たちの苦悩が解消されたこと、やりたいことが表現されていたのは、辻仁成の経験値かなと思いました。自己満足だらけの映画を作ってる監督はいっぱいいるけど、本作のストーリーや演出は観客に見せるレベルに至ってないです。見終わってから小説版をパラ見したら、テキストのほうがマシな感じがしました。
くるみ

くるみ