「一歩一歩負けないように、自分の力で、普通に歩けばいいんだ」
僕は高校から山岳部。
大学に進学して親元を離れ、最初の夏休みに一番やりたかったことは、北アルプスでのひと夏の山小屋バイトだった。
浪人時代から一番の夢だった。
“山と渓谷”の広告欄を読んで、真剣に研究した。俺の好きなあの山小屋で、赤いトタン屋根の上に布団を干して、青空の下、昼寝して過ごしたい。
給料が安いことは知っていた。この映画みたいに笑顔いっぱいの蒼井優がいることを期待していたわけでもない。
結局、行けなかった。いや、行かなかった。授業さぼっちゃ単位が心配とか、バイトの塾の講師に穴を開けちゃいけないとか、今考えると、つまんない理由。
行っとけばよかった。行ったらきっと、人生観が変わっていたような気がする。もうひとまわり、ゆとりのある人間になれたような気がする。
若者は、やりたいことに躊躇するな。
今しかできないことがある。
「スミレ小屋はみんなの心の避難小屋だったんだな。みんな疲れたらここに来る」