紅孔雀

イーダの紅孔雀のレビュー・感想・評価

イーダ(2013年製作の映画)
4.8
白黒スタンダードの画面と極端に少ない台詞でも多くのことが表現できる、そんな映画の典型例。才能と信念があれば、観客の心を大きく揺さぶれます。
『コールド・ウォー』のパヴリコフスキ監督が、その5年前に撮ったのが本作。アカデミー外国映画賞を受賞し、彼の名を一躍世界に知らしめた記念碑的作品です。
父母の死の謎を探るユダヤ人修道女とその叔母。新旧2人の女性の悲しき探索行が描かれます。美少女イーダは、修道院の外の世界で父母にまつわるポーランド史の悲劇を知り、予定していた修道請願の誓いを一時取り止めます。そしてアルトサックス奏者の若者と一夜を共にした後、寝ている彼を残し独り歩み始めるのでした。その歩みと共にバッハのコラール前奏曲『イエスよ、わたしは主の名を呼ぶ』が流れ、彼女の行先(イエスへの道?)が暗示されて映画は幕を閉じます。修道院時代に比べどこか自信に満ちたイーダの顔が印象的でした。
なお恋人のアルトサックスで吹かれるのが、なんとコルトレーンの『EQUINOX』(そして2人が踊る時にかかるレコードは、同じコルトレーンの『NAIMA』です)。さらに叔母の蓄音器が演奏するのはモーツァルト最後の交響曲『JUPITER』。相変わらず音楽のセレクトが素晴らしい監督でした。
さて本作と『コールド・ウォー』、どちらか一つとなれば皆様どちらを選ばれるでしょうか?私は、男女の運命に一層の深みを感じた『コールド・ウォー』を選びますが『イーダ』の簡潔さを捨て難いと言う人もいるかも知れません。まぁ、甲乙付け難い静謐な2大名品ではありました。
PS: 『コールド・ウォー』のヒロインJ.
クーリクが歌手役で出ているのも嬉しい驚き。本物の歌手かと思わせる雰囲気が、次作の名演に繋がります。
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