Sanald

フルートベール駅でのSanaldのレビュー・感想・評価

フルートベール駅で(2013年製作の映画)
4.0
監督は『ブラック・パンサー』で有名なRyan Coogler。この作品が初監督作です。
主演・Oscar Grant役はMichael B Jordan。彼はのちにブラック・パンサーで悪役を務めます。

全米にmovementを引き起こしたGeorge Floyd殺害事件は記憶に新しいが、
アメリカの黒人史、それも近代では、彼以外にも多くの人物が白人警察によって殺害されてきた。この映画の主役、Oscarもその一人である。
今から10年前、すでに一部の人はスマホを所持しており、この事件は目撃者によって撮影されていた。結果的にこの映像が、Oscarを殺害した警察官を逮捕するきっかけとなったのだが…
判決は懲役2年。でも、11か月で釈放。誰がどう見ても納得のいかない結果であった。

この映画は「物語」ではなく、実際に起こった事件に基づいている。
百歩譲って白人警官が「誤発射」したのだとしても、
簡単に黒人相手に銃を取り出すことができる、その環境がまず信じられない。
実際の映像を見ても、Oscarたちがものすごく暴れている形跡はない。
威嚇行為なのだとしても、人を殺めかねない武器を簡単に取り出し、人に向けられる、そんなことがあっていいのだろうか。

Oscarは自分が刑務所にいた時期を回顧し、後悔していた。もっとまともな生き方がしたいと苦悩していた。まだ22歳。未来にはいろいろな可能性が満ちていただろうに…。

「Where is daddy?」
問いかける娘のタチアナが何かを悟ったように母を見つめるラストシーンは、涙が止まらなかった。
人の命を何だと思っているのか。黒人だからどうでもいいのか。
そう、思わざるを得ない、扱いの違いに、怒りと悲しみが止まらない。

今、アメリカで起こっている問題を遠い目で見ている人、そもそも全く関心のない人へ。

私たちは、こうやって、日本で日本人として暮らせていることがものすごく幸せなのだ。

彼らは、アメリカで生まれ、アメリカ国民として生きていたとしても、
「祖先がアフリカからやってきた」「奴隷だった」バックグラウンドにより、いまだに部外者のように扱われ、
決してアメリカ国民の一員として「正しく」認められているわけではない。
常に冷たい目線にさらされ、周囲で悪いことが起これば真っ先に加害者だと疑われる。
職も得られず、結局安給の職や裏社会の職に手を染めるしかなくなる。
そんな、つらい思いを、はるか昔から経験しているのに、
今もまだ、虫けらのようにおさえつけられ、
「呼吸ができない」と訴えても、決して開放してもらえず、
息絶える。

そんな国が、「Great America 」などという資格があるだろうか?
そして私たちはそんな国と仲良く同盟を結び、
「おともだち」として何食わぬ顔で見ている。
こんなことがまかり通ってよいのだろうか?

この問題を「自分には関係ない」とするなら、
それは差別を平気で続ける人たちの側に加担しているのと同じこと。

何度でも言う。
これは他人ごとではない。

いまいち現状がつかめない人はぜひ、この映画を見てください。
10年前の出来事を描いたこの映画と同じようなことが、今起きている。


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