ろくすそるす

狂った果実のろくすそるすのネタバレレビュー・内容・結末

狂った果実(1981年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ロマンポルノの中でも本作は、ある意味で「異色中の異色」であり、実に強烈な一本だった。とりわけ、ここまで腹立たしいヒロインを生んだというだけで、日本映画のなかでもかなりのエポックメイキングと言いますか、問題作と言いますか……。

 主人公・佐川哲夫は昼はガソリンスタンドでアルバイト、夜はぼったくりのピンクサロン(垂れ目の元ボクサーが経営する、いわゆる「おさわりバー」)で働く青年。神主の親父がぽっくり逝ってしまったばっかりに、大学に行くお金もなく、今は東京で一人暮らしをして稼ぎながら、実家から食料の仕送りをもらって生活している。
 ある日、ガソリンスタンドのバイトで不良学生の車の灰皿を取る際に、ミスをして灰を助手席の女にかけてしまう。急いで拭こうとして胸をさわってしまう失態をしでかす。その場はなんとか丸く収まったが、以降このチカ(実はデザイン学校に通う金持ちの令嬢だったことが明らかになる)という女は主人公をシツコく付きまとってくる(しかもさも意味ありげに……)。一時はこのチカという女とのロマンスめいた展開(どしゃぶりの雨の中テツはチカに踊りかかって犯すのだが早漏という場面、ピンサロの金を払わない客を暴行して逃走、その後彼女と連れ込み旅館でやる)になるのだが、その後のチカの振る舞いが、自分の義理の父親との近親相姦をやめたいがためにテツを利用したり、ヘラヘラした学生たちを引き連れてテツの店を荒らしにいったりと非常に質が悪い。しかも、親のすねかじりの学生たちは、ピンサロの店主の妻ハルエさん(本作で一番魅力的なキャラクター)の腹を蹴って赤子を流産させてしまう。苦労人である哲夫の怒りたるや。
 ラスト、バーのマスターと哲夫は学生たちに殴り込みに行く。だが、多勢に無勢。たった二人では歯が立たず、学生連中にかんぷなきまでにボコボコにされる。哲夫の怒りはついにここで頂点に達して、ドスを手に取ると学生たちをぶすっ、ぶすっと突き刺してゆく。血みどろになった喫茶店のカウンターからチカが呟く。「待って……見ていたいの」。傍観者ぶっているけど、これ悪いの全部お前だろ?
 哲夫は我が強くて、静かな内に獣性を秘めているタイプで凄く共感できるキャラだけど、チカはビンタで鼻血出す位では済まないくらい最低。一人の金持ち女の道楽がすべてを狂わせたのだと思うとイライラするけど、おさわりバーのマスターの哀愁とか、ハルエさん(『竜ニ』の永島暎子)のむんむんの色気とかが本当に魅力的で、ここまでエモーショナルで暴力的な破滅ものの秀作は、なかなかないのでとても面白く拝見した。