うみ

リトル・フォレスト 夏・秋のうみのレビュー・感想・評価

5.0
良い映画だった……!

あんまり激しい起承転結はわたしにとってしんどいので、そんなわたしにとってこの映画は極めて心地よかった。

橋本愛ちゃんが首元のタオルで汗を拭いながら、旬のものを採って丁寧に料理して食べる、その様は延々と眺めていられる。

全編のほぼすべてが採って料理して食べる、この繰り返しである。愛ちゃん演じるいち子は、時に母との記憶を思い出し、キッコちゃんやユウ太、おじいちゃんおばあちゃんと関わりながらも彼女の眼差しは常に山、川、田んぼや畑に向けられており、そこに大きな情緒の波や事件も無い。それにも関わらず、われわれ視聴者は一切退屈することなくむしろ画面を見つめていられる。それは、彼女の日々の営みが「生身のもの」であり、「自分で殺して自分で食べる」という原体験そのものであるからだと感じる。

日常は単調で、しかし季節は1歩も留まることはない。東北の村の小さな集落は、現代でありながら現代人の多くが二度と手にすることの無い宝物で満ちている。われわれはもう、ガタガタのあぜ道を自転車で走ることもないので。

橋本愛ちゃんの綺麗な声での落ち着いた語りが、時に沈黙の中に響き、時に虫の声や草木のざわめきに覆い被さる。画面の分割を上手く使い、時に生き物の視点へと映る映像とあわさって、眼にも耳にもただただ心地よい映画が生まれている。このことがこの作品の最大の魅力であり、まさに純粋な映画体験であると思う。どうやって録ったんだろう。
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